１０・凄惨劇 ページ12
肉が裂けて潰れる音がした。鮮血が飛沫いて、私の頬を紅色に染める。
兵士は一度びくりと痙攣すると、やがて動かなくなった。
私は剣を引き抜いて頬を拭う。手のひらにべっとりと血がこびりついている。恐らく服も血濡れだろう。
この汚れを落とすのは困難な戦いになりそうだな、と私は呑気にどうでも良いことを考えた。
｢おかあさん、おかあさんっ……｣
私は振り返る。十歳になるかならないか程度の少女が、顔を涙で歪めて母親を揺さぶっていた。
母親は胸を深紅に染め、糸の切れた人形のように倒れている。いや──ようにではなく、もう既に物言わぬ骸だ。
私は辺りを見回した。泥クジラの住人の死体と、兵士の死体があちこちに倒れている。
泥クジラの住人は兵士に殺されたモノで、兵士の死体は私に殺されたモノだった。
｢……大丈夫？｣
私は少女の傍らに屈んで、答えの判りきった馬鹿げたを質問をした。大丈夫な訳があるか。母親を殺され、自分も殺される寸前だったのに。
挙げ句、彼女の前で私はかなりむごたらしく兵士を殺した。大丈夫な要素が一体どこにあると云うのか。
｢……取り敢えずここから逃げよう。いつまた兵士が来るか判らないし……ね？｣
｢でも……でもおかあさんが｣
｢お母さんはもう居ない。だから｣
あまり時間をかけるべきではない。いつ敵が押し寄せるかも判らない。そう判断した私は少女の細い腕を少し強引に掴んだ。
しかしそれがいけなかった。
｢いやっ！｣
ぱしっ、と乾いた音が響く。弱くて力の無い、でも確かな衝撃が手のひらに走った。
少女が涙に濡れた目で私を睨む。私は弾かれた手をゆっくり降ろした。何故、私は彼女に睨まれているのだろう？
母親を助けられなかったからか。
それとも強引に母親から引き離そうとしたからか。
正直どちらでも構わないが、今は彼女の意思を尊重してあげる猶予はない。
いっそのこと、彼女を気絶させて──
少女が前屈みに、私の方に倒れこんだ。
一瞬、何が起こったのか判らないまま少女の身体を受け止める。受け止めた腕が真っ赤に染まった。鉄の臭いが一際強く鼻につく。
撃たれている。
私は顔を上げた。一人、兵士が起き上がっている。仕留め損なったのだ。銃口は真っ直ぐに私に向いていた。
｢……お前、が｣
兵士がくぐもった声を発した。
｢お前、がファレナの悪霊(デモナス)か｣
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猫目 - 今更ながらコメント失礼します！同じく私もシュアン推しなので見つけたときめっちゃテンション上がりました！見ていらっしゃるかは分かりませんんが更新応援しております(^^) (2019年3月26日 20時) (
レス) id: 619380b1ab (このIDを非表示/違反報告)
りぃふ - はじめまして。今更コメント失礼します！私はクジ砂中でシュアンがとても好きなので、この小説を見つけた時はすごく嬉しかったです！このお話のおかげで今だいぶシュアン沼にハマってます…笑お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています。(*^^*) (2018年6月24日 19時) (レス) id: f3d7bfc71d (このIDを非表示/違反報告)
なつみん - るりさん» ありがとうございます！同士嬉しいです！最近滞り気味ですが、時間を見付けて更新します！ (2018年2月20日 17時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
るり - 初めまして！私も団長さんが好きです！とても良い設定、話で好きになりました。これからもがんばってください続き待ってます (2018年2月16日 17時) (レス) id: 1a80d02d72 (このIDを非表示/違反報告)
なつみん - 裕貴さん» 裕貴さん、はじめまして！私も団長さんが一番好きなので、そう言って頂けると嬉しいです。皆様のコメントを励みに、これからも頑張ろうと思いますので、どうぞよろしくお願いします！コメントありがとうございました！ (2017年12月22日 6時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なつみん | 作成日時：2017年12月17日 16時
