独善的押し付け ページ38
「…なにアイツ。ツンデレ?」
「…」
及川が教室を出て行くと、花巻が半笑いで冗談交じりに言葉を吐く。
私は及川が机に置いて行ったものを手に取る。
「アイツこそ、お前の気持ちも知らねえで。な?」
「…うん」
本当に。及川こそ、わかってないよ。
なにも、わかってない。
かさりと封を切って中身を取り出したそれは、少しずつじんわりと熱を帯びていく。
私は、人の心情を読み取ることが本当に苦手で、疎い。
だってみんな、私が思っていることと実際の行動は裏腹なんだもの。
それは、楔のように私の心の中にしっかりと打ち込まれていること。
人の心情って、本当に難しい。
本当は勝手に理解しようとせず、わからないままでもいいのかもしれない。
勝手に想像して傷つくのは辛いから。
でも。だから。
―――だからこそ、及川も思っていることを伝えてくれなきゃ、分からないよ。
カイロ越しに及川の優しさを感じながら、私は小さく息を吐いた。
*
及川から、だんだん遠のいていく気がする。
あの後、私は及川に貰ったカイロを腹部に当てがって保健室で少し休ませてもらうことにした。
「失礼しまー、って。誰もいねえのかよ」
ベッドに横になって、その声が耳に届いたころには記憶が飛んでいた。大分寝ていたのだと思う。
カサカサ何かを漁る音と、がしゃんと何かを落とした乾いた音に、私は寝てもいられず静かにカーテンを開けた。
「…岩泉」
そこには、ジャージ姿の岩泉がいた。
開いた窓からは、校庭で体育の授業を受ける楽しそうな声が聞こえてきて、まだ授業中なんだと知る。
「お、悪い。起こしちまった、な」
岩泉がバツの悪そうな顔をして床に散らばった数枚の絆創膏と、ハサミと包帯を拾った。
「腹?」と尋ねた岩泉に私は頷く。
「…怪我?」
及川に貰ったカイロと体を休めたお陰で、心なしか腹痛が若干和らいでいた。
「ちょっと体育でな」
どかっと椅子に腰を下ろした岩泉のジャージは不自然に捲し上げられてて、その膝には血が滲んでいた。
「待って!」
岩泉が、皮膚が剥げたようなその箇所に、血を拭くことも消毒することもなく絆創膏をそのまま直に貼ろうとするものだから、私は声を張り上げて慌ててベッドから出た。
岩泉は驚きで目を見開いていた。
靴なんて履く余裕もなく、靴下越しに床のひんやりとした冷たい感覚がしたのも――束の間だった。
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いおり - 道徳の教科書に載ればいいのにぃ!!泣くことしか出来ませんが…凄く素敵な作品で本当に号泣しました!!1日で全部読ませて頂きましたがここまで素晴らしい小説は今までで一番だと思います!! (2020年12月9日 15時) (レス) id: 5e524467c0 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 本編は全て夢主目線なのに他の登場人物の感情も伝わってきて、切なくなりました。作者様の描写が繊細だからこそ、読み手にしっかり伝わるのだと思います。番外編でまた深く心情が知れて切なくなりました。特にマッキーがかなりグッときました。すごく素敵な作品でした! (2020年6月22日 9時) (レス) id: 2f4dc25fc0 (このIDを非表示/違反報告)
おかか - めっちゃ面白かったです!一人一人の言動の真意とかしっかり話が作られていて、リアルで凄いです! (2020年6月21日 9時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
ルーテル(プロフ) - 今まで読んだ占ツク作品で1番好きかもしれません…1人1人の心情がリアルでぐちゃぐちゃなのに真っ直ぐな恋心がとても心地いい作品でした!マッキーの切なさが一番心に来ました…いい作品をありがとうございました! (2020年5月31日 22時) (レス) id: 98b39f25a9 (このIDを非表示/違反報告)
モンブラン♪@アップルパイも捨てがたい(プロフ) - 泣いた...岩泉夢主さん好きなのかなぁ?は勘違いか...もうカッコよすぎ...ごちそうさまですっ (2020年1月13日 12時) (レス) id: 538cc2e76e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年10月17日 21時