策略と体温 ページ36
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ある日の帰り道。
私はクロと並んで歩いていた。
意図して車道側を歩くクロに、私はマミの言葉を思い出しては心を弾ませた。
コツ、と私の手がクロの手に触れて、指が絡めとられる。
「なに」
「繋ぎたかっただけ」
「あ、そ」
クロの大きな手が、私の手を包む。
もうだいぶ、寒くなってきた。
「今日も可愛いな、お前」
「何急に」
柄にもないことを言うクロの横顔を見上げる。
「いーや?思ったことを口にしただけだけど?」
…気味悪いって。
「可愛くしてるんだから、当たり前」
「へえ?」
なにが言いたいのだろう。
この返事が返ってくることは、クロなら容易に想像できただろう。
「…機嫌取り?」
「バレた?」
何を企んでいるんだこの男は。
「…なに」
「マネ、やってくれねえかなって」
「やらないって」
私がため息交じりに答えると、クロが私の手を離して急に肩を抱いて自分の方へと寄せる。
バランスを崩した私は、そのままクロにしがみつく体制になる。
肩に込められた力がやけに強くて。
私がよろけたと同時に、すうっと鳥が横切ったような音がして風が吹き抜けた。
「あっぶねえな」
クロに肩を抱き寄せられたまま、私は自分の横を通ったのが自転車なのだと気づく。
「大丈夫か」
クロが私の肩に手を添えたまま、体を離す。
寒いのに、熱い。
「あ、ありがとう」
急に、こういう恋人っぽいことされたら、ドキドキする。
意識せずにはいられない。
行くぞ、とクロが言う。
(手、繋がないんだ)
心の底を叩くと、少しだけ悲しい音がした。
「お前」
クロの隣を歩きながら、私は冷えた手をカーディガンのポケットに突っ込んだ。
「まーた告白されたらしいじゃん」
「はっ!?なんで知って、」
クロの言葉に、また少し、体温が上がった気がした。
今日の心は、忙しい。
「山本から聞いた」
くそう、あのモヒカンめ…。余計なことを…。
ポケットの中で拳を作って力を込める。
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クロいいよね - 完結おめでとうございます とっても面白かったです!! (2022年11月21日 22時) (レス) @page50 id: 18092cdeea (このIDを非表示/違反報告)
ちあ。(プロフ) - コメント失礼致します。完結おめでとうございます!毎日更新楽しみにしていました。私自身、自分は流されないように頑なになりすぎていたんだな、と作品を読みながら思いました。周りに合わせることも流されないことも、両方器用にできるようになりたいって思いました! (2019年10月14日 1時) (レス) id: 2013350887 (このIDを非表示/違反報告)
momx(プロフ) - 完結おめでとうございます!とても面白かったです。 (2019年10月13日 17時) (レス) id: 2de1bab8eb (このIDを非表示/違反報告)
ずー(プロフ) - 完結おめでとうございます!素敵だなと思う作品は小鈴さんの作品がほとんどで…。とても楽しまさせて頂きました。 (2019年10月13日 11時) (レス) id: 5f1f2e19c0 (このIDを非表示/違反報告)
usagicyanda(プロフ) - 完結おめでとうございます!丁度一年ほど前に私もこの主人公と全く同じ1つ上の人気者の先輩と付き合っていました、ほんとに全く同じ状況で涙がこぼれました..その先輩は晒すだけ晒して守ってくれませんでしたが... けど主人公ちゃんとクロが幸せになれてよかったです! (2019年10月13日 3時) (レス) id: cef44ace1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年9月29日 17時