断頭台で待ち合わせ (ページ42)

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ほつれたリボン　４－③ ページ42

「……や、やあ」

　ロングボトムは勇敢にも微笑んでみせた。頬の引き攣りさえ見逃せばの話だったが。

「騒がしくしてすまない。怪我はどう？」
「大丈夫……」

　誰も彼も自分の顔を見ると途端に気色が悪くなる。シャルルは早々にリタイアしたくなる思いをどうにか呑み込んで、提げていた小袋をベッドサイドチェストに置いた。良ければ夕食代わりに摘んで、と近くの椅子を引き寄せて座る。
　ロングボトムはあれこれ悩んでるのが丸わかりだったが、もごもごと口を動かしては噤む。彼が列車のコンパートメントを回っていたときは一度も顔を合わせなかったが、ドラコの年上の取り巻きが言うに、なんとロングボトムは悪名高いスリザリン生のいるコンパートメントにも訪れていたようで、シャルルは少し驚いた。傲慢な言い方をすれば、見直したともいう。そこで少し作戦を変えることにした。

「俺、甘い物が好きなんだ」

　ロングボトムは首を傾げた。その手に巻かれた包帯を見て、どこも似たような処置なんだな、と前世との差異を比べながら続ける。さっき苺のタルトを食べてるとき、君の持ってた思い出し玉のことが頭に浮かんでさ。そういえば夕食にも来ていないし、ご飯抜きはさすがに堪えるだろうと思ったんだけど──シャルルはここでへなりと眉を下げた。

「……迷惑だったら謝るよ」
「迷惑なんか！」

　ロングボトムが恐縮する。大袈裟に手を振った勢いで側のライトにぶつかり、橙色の笠がぐらついた。ポンフリーは溜息でロングボトムを黙らせて消えた灯りを点した。カーテンレールが唸り、二人してほっと肩の力を抜く。

「その、迷惑じゃないよ、本当」
「ふふ。なら良かった」
「うん……ありがとう、アンリ…………様……？」
「どちらでも構わないよ。呼び捨てでも、敬っても。それともお互いファーストネームにする？」
「そ、それは……」
「じゃあ呼び捨てだね」

　ロングボトムは散々迷った末にこくりと控えめに頷いた。記憶が混じる前のシャルルなら彼の小動物じみた仕草は鼻についたかもしれないが、今のシャルルはむしろ可愛いとすら思う。昔のドラコと重ねているのである。くすくす笑って脚を組み、太腿に肘を預けてゆったりと頬杖をついた。シャルルの柘榴色の睫毛が柔らかに伏せられ、ネビルは何か厭らしいものを見てしまったみたいに、はっと目を逸らしていた。