セカンドプロローグ ２−�� ページ19
「……話を戻そう。彼は人も獣も大勢殺したが、世界自体を崩壊させるには至っていない。それは彼の目的がそこにないからだと思っているかもしれないが、彼が万が一世界を切り崩して神に成り果てようとしたとしても、それは不可能さ。そういうふうに出来ている」
シャルルは理路整然としつつもどこか宗教的で不明瞭な説得をゆっくりと時間をかけて咀嚼する。帽子は黙って待っていてくれた。複雑なことを考えすぎたからだろうか、頭が重い。
何秒か待たせてなんとなく理解し、ならば本来の道筋を意図的に踏み外しても構わないのか、と問いかける。
「それを赦すのは私ではない。世界の本質を支配する者はいないからな。つまり、誰にも赦されないことだ。しかしそれはまた誰にも咎められないことを示している。違うかね？
……よし。心は決まったな。それではひとつお教えしよう」
まるで禅問答だ。心が決まったとは言い難かったが、帽子の咳払いで思考を中断させられる。広間のざわめきが戻ってきた。シャルルは幼馴染の冷たい掌を思い出す。
「先程の傲慢な憂慮は氷山の一角に過ぎない。自覚はあるだろう。誰も躓かないようなところで立ち止まっておきながら理想は高く持つ……ふむ、難儀なものよ。しかしそれは真実の友を助け、そして君もまた救われることに繋がるだろう。世界はそれに関知しない。
ああそうだ、そうだとも、君がそれを望むのなら──スリザリン！」
ざわめきが一層高まった。誰も止めようとしない大波がわんわんと響く。
シャルルは弾けるように帽子を脱ぎ、網膜を刺激する何百もの光に取り繕う余裕もなく顔を顰めたが、薄い頬は否応なしに緩んだ。緑銀と蛇を称えるテーブルにゆったりとした足取りで歩き出しながら、振り向きざまに「わかってるな？」と口端を上げた。
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作者名：砂な | 作成日時：2023年3月25日 23時
