逃げただけでした。#1

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「＿＿＿＿＿＿合鍵。まだ持ってんの、」


『あ、うん.......』

　




視線の先の私の手にはいつだったか、付き合ってた頃貰った葛葉の家の合鍵。そういえば、返しそびれていたっけ。







『ごめん、癖でつい』






よくそれで葛葉の家に入っていたから。
でも元彼の家の合鍵、未だに持ってるなんて可笑しかったよね。

その言葉は口には出きず、呑み込んだ。





鍵を回して、がちゃりとした音が聞こえた。

そのまま開けたよ、と声を掛けるも、何故か彼は足を踏み入れようとする気配が全然なくて。








『＿＿＿＿＿＿葛葉？』








ドアが開いたというのに、さっきからなんの反応もないことに気になって、視線を彼に向ければ。





ばち、と葛葉の赤く染まった綺麗な目が合う。
その瞬間どくん、と心臓が大きく鳴ったのも束の間。

考える間もなかった。





両手首を掴まれたかと思えば、強引に家の中に入り込まれて。
声を出す暇もないまま、玄関の壁に背中がつくような形で、葛葉が覆い被さった。







『＿＿＿＿＿＿んっ、』







思わず目を閉じれば、何かが口に触れた感触。

その瞬間、頭が真っ白になった。
身体中の力がふわっと、抜けたような感覚に襲われた。



ばたん、とドアの閉まる音と手に持っていた鍵がかちゃん、と落ちる音がして。でもそれを拾うことすら、頭にはなかった。







『んっ......』







私の口から漏れる声。
目の前の彼によって拘束された手首のせいで抵抗も出来なかった。否、そうしなかった。





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