狼 青 年 〜フードの奥の素顔〜

＊ ページ27

涼介side



「さぁでは、少しだけお話聞きたいと思います！……では、茜さん！どうでしたか！？」






………ヤバい。



頭の中は、パニックだった。




顔も見たくないはずなのに、あの人を……かつて俺をいじめていたあの人を見たまま、体が動かない。





なんで。
どうして。


さっきまで、あんなに……




「茜さん…？」

宏「……茜…」







そんな声にも、反応出来ず。

俺は………石みたいに固まって、声が締め付けられるように出なくなった。









さっきまで、踊れてたはずだろ。

俺はHoney Beeの茜なはずだろ。






彼に怯えることなんて何も無い。

何も無い、はずなのに………








なんで………どうしてこんなに……









裕「茜。……大丈夫だよ。ほら」

光「茜っ！！」







………何もかも聞こえなくなって、頭の中がごちゃまぜになった、そんなとき。







優しい、裕翔の声。

そして………会場の端から聞こえた、ヒカの声。







………その2人だけの声が、やけにクリアに、脳内に響いた。



2人の声で思い出すのは、先週のあの言葉で。








『もし………もし、過去に何かあって、それをバラされたって………そんなので離れるような奴らばっか周りにいるわけじゃない』


『堂々としてなさい。……正体がバレたって、過去をバラされたって、今の俺にはこんなにたくさんの人がいるんだって言ってやりなさい』


『お前らがイジメなんてくだらないことをけしかけた相手は、今ここまで大きくなってるんだって見せつけてやりなさい』






涼「…………俺は」









………気付けば。

無意識に薮ちゃんの服の裾をきゅっと握りながら……それでも、マイクを通して全体に自分の声を響かせていた。


反響して聞こえてくる声は、さっきの歌とは違って情けなくて、少し弱々しい。




それでも。



俺は、伝えたかった。







涼「……せ……っ…精一杯、やれました。ここにいる全員に楽しんでもらうために…大袈裟に聞こえてしまうかもしれないけど……生で披露することは、大きな挑戦でした」






俺の、メッセージを。






涼「…そしてこれからも……大きな挑戦をしてみせます。………だから……だからっ、こんな俺だけど、ずっと俺らのことを、見ていて欲しいですっ……」






俺は、もう君の知ってる俺じゃない。

見てろよ、なんて強気な発言は似合わないけど。


俺にとっては、これが挑戦状だった。

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