狼 青 年 〜フードの奥の素顔〜

＊ ページ26

涼介side




周りを見れば…スタンバイをする、見慣れたメンバーたち。




……探さない。

完璧なパフォーマンスを。

ステージを楽しむことを。

楽しませることを……意識する。



観客の人たちの顔を見るのが少し怖くて、床を見つめる俺。









………イントロが…会場に大きく響いた。



すると不思議なもので、体の震えが消えて、体がリズムに乗って動き出す。




さらに湧く観客。
気持ちが乗る俺たち。








『心ゆくまで 嘘をつく』






自分のパートを丁寧に歌い上げれば、裕翔の口元も口角があがったのがわかって。

つられるように俺も……口の端を持ち上げた。





…………出来るじゃん。


俺……今は、茜として。

ちゃんと、Honey Beeの茜としていられてるじゃん。




頭のどこかで冷静に考えたら嬉しくなって、さらにダンスに力が入った。







「茜〜〜っっ！！！！」



涼「っ……え…」







聞き覚えのある声に反射的に目を向ければ……大きく手を振ってこちらを見つめ、笑ってる彼がいて。





なんで、ここに………








光「あ！か！ね〜っ！！！」




……そっか……ここまで来てくれたんだ、ヒカ。


俺がこの数日、あまりにも不安そうにするからきっと、顔を出してくれたんだ。


もう大丈夫だと言う代わりに、そちらに小さく手を上げれば……ヒカの周りの人も、わっと声を上げた。









.









『Again again Try & error』





……最後の歌詞と共に、ポーズを決めて。
同時に、大きく流れていた曲も、余韻を残して消えた。



大きな拍手と歓声に包まれ、俺らも1列に並んで一礼する。





………やり、切った…





隣には、蓬が立って。
ニコリと笑って、肩を組まれる。

それが嬉しくて、俺も笑って…さっきとは違う、真っ直ぐに正面を見た。









「Honey Beeの皆さん、ありがとうございました！！」



涼「……ぁ…………」









………その時だった。









ある人の笑顔に………脳裏の奥の奥にある記憶が、蘇ったのは。






ホカホカとした体が………一瞬にして。
冷たい氷が刺さったような感覚に陥ったのは。









涼「っ………」


宏「…茜………？」







だめ。


思い出すな。絶対に。

今はダメだ。



俺は今、Honey Beeであって、茜であって、山田涼介じゃない。




そのはずなのに……彼の笑顔が、過去に俺に向けた狂ったような笑顔と重なってしまった。

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