私の愛する世界 ページ45
基地に辿り着くと、基地の門で幹部と兵士達が待っていた。私達の姿を見て歓声が上がる。少し恥ずかしいな、と思いながらトントンさんの肩を借りて手を振り返す。
すると誰かが門から私達に向かって駆けてくる。その人物は息を切らしながら私に手を伸ばした。少しの汗と香水の匂い…。この匂いの正体をもう私は知っている。
「しゃおろん、」
私は声を震わせて名前を呼ぶ。
「A…A…」
ぎゅうと強い力で抱きしめられたまま彼もまた私の名前を呼ぶ。ずっと聞きたかった安心する声。私は彼の胸に手を置き顔を見上げる。至近距離で見た彼の目は涙が溜まっていて…所々傷痕はあるものの命に別状はないみたいだ。
「シャオロン、私ね…あなたに伝えたいことがあるの」
「オレもやで。Aに聞いてほしいことがある」
「…私から先に言ってもいい?」
「もちろん、いくらでも聞くで」
「私、頑張ったの。…みんなの…、シャオロンのために」
「そんなのとっくに知っとる。いつも頑張っとったやん。」
シャオロンの笑顔に私もつられて笑ってしまう。
「後でたくさん褒めるとして…オレの話もしていいか?」
「もちろん」
「今、言うんべきか分からんけどAのことが好きなんや。目、覚まして真っ先に考えたのはお前のことやった。ゾム達から事情聞いて、ほんまはすぐに飛び出したかったんやけど身体が言うこと聞かんくて…。Aを失ったらどうしよ思うて…やっと気づいたんよ。」
いつもの彼とは違う。真剣な顔。痣と血で顔もきっと汚い私なのに、彼はそっと頰に手を当てる。その瞳は、熱を帯びていて嘘ではないと思い知らされる。
「…わたしも、シャオロンが好きだよ。」
言いたいことはたくさんあったのにも関わらず声として放たれたのは一言であった。シャオロンは顔をくしゃりと崩して柔らかく笑う。
シャオロンと私の距離がゼロになろうとしたその時、隣からにょきりと手が入ってきた。
「あの、お二人さん。良いところですまんのやけど一般兵もおる中で堂々といちゃこらすんのやめてもらえます?」
その手は顔を鬼にしたトントンさんのものだった。しかし周囲のブーイングを浴びるのもトントンさんで。総統が兵士と共に親指を下げていれば一番に叩かれていた。そんな彼らを見てシャオロンと私は顔を合わせて笑う。
始まりはあのマンホール。落ちた先には彼らがいた。
個性豊かな彼らと、全然平凡ではないこの世界を、愛せて良かったと私は…心の底から思った。
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鳩山(プロフ) - えみさん» コメントありがとうございます。懸命に生きる2人と彼らの話を素敵と言っていただき本当に光栄です…!最後までご愛読ありがとうございました! (2021年2月20日 16時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
えみ - rbr推しですがshaちゃんとくっついて欲しいと思ってしまう程の作者様の文才に引き込まれました…!とても素敵な話でした! (2021年2月19日 17時) (レス) id: 1597543406 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ブンブンさん» ブンブンさん!以前もコメントして下さいましたよね?本当ありがとうございます…!良かったら番外編でもよろしくお願いします…!最高に嬉しい言葉を本当にありがとうございました! (2019年11月11日 0時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
ブンブン(プロフ) - 完結おめでとうございます!貴方の作品に出会えて本当に良かったです! (2019年11月10日 23時) (レス) id: 4a511d68cf (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - kogarashi343gooさん» コメントありがとうございます!本当に嬉しいお言葉ばかりで私からも感謝させてください!すごく励みになります…!今後は番外編然り、別作品然り、更新頑張っていくつもりですので今後ともよろしくお願い致します! (2019年11月10日 22時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
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