4.美人薄命 ページ6
A視点
「はっ。仰せのままに」
そう言い、彼は刀を仕舞った後、私に跪いた。
…………跪、いた?
『いや……そこまでしなくとも……』
「半兵衛様の御弟に、礼を欠いた行動など
……如何なる場合も出来ません」
何故私も敬意の対象なんだ……!!
今までまともに、会話すらしたことが
無いと言うのに。
『そうか……あー……此度の戦も、期待している』
「勿体無い御言葉です」
これ以上はキリが無いと判断し、
私は逃げるようにしてその場を去った。
***
戦が始まってから数刻。
兄上の策もあり、豊臣軍は優勢だった。
……しかし、予想よりも少し進軍速度が遅いな。
疑問を抱いていた時。
様子を見に行かせていた部下が
息を切らして帰って来た。
「経過良好。しかし、相手方に
少々腕が立つ者が居るらしく……」
『……それで
兄上の計画に綻びが出来ている、と。
「申し訳ありません、す──」
『構わない。私が出る』
その方が、効率がいい。
兵に任せる時間が勿体無い。
私は返事も聞かず、
馬に跨がり敵陣へと突っ込んだ。
慌てふためく敵を前に、
私は馬から降りて関節剣を構える。
不意に誰かが叫んだ。
「竹中半兵衛だ!」
どうやら、私と兄上を勘違いしたらしい。
……ふざけるな。
強く噛み込んだ歯が不快な音を奏でた。
殺気に当てられた敵の馬が、
暴れながらもこちらへと向かっている。
兄上と私を間違う、だと?
無礼千万──万死に値する。
『……私は竹中半兵衛様ではない』
兄上のようには、なれない。
『私は、ただの、紛い物だ』
関節剣が、うねりをあげた。
私の叫びの代弁者のように。
***
「此度の活躍、素晴らしかったよ」
『……有り難き幸せです』
戦が終わると、私は一人兄上に呼び出された。
「……ところで、A」
『……はい?』
「……君はやはり、僕以外の為に自分の能力を
使う気はないのかい?」
『ありません』
「では、僕以外に仕えてもよいと
思う相手は?」
『居ません』
「……だろうね。けど、そんな君に、
僕は心を鬼にして言おうと思う」
回りくどい言い回しに、少し違和感を持った。
『……何でしょうか』
「僕はもうすぐ死ぬ」
唐突な言葉に、私は呼吸を忘れた。
それでも兄上は言葉を発し続ける。
「僕が死んだ後は、秀吉の為に生きてくれ」
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作者名:紫蘇ぷりん | 作成日時:2018年9月24日 18時