気遣い ページ14
酷く、帰りたかった。
――どこに、というのは分からない。
ただ、帰りたかった。
ここは私の居る世界じゃないと、第六感が告げているような……
外には雨が降り始め、段々と強さを増していく。
その音が余りにも心地よくて、私は寝ころんだベットの温かさに身を任せた。
バタンッツ！！
ドアが勢いよく閉まる音がして、私はうたた寝から目を覚ました。
何事かと思い玄関に足を向けると、その途中の廊下でユーマとすれ違う。
彼は、大きな木箱を抱えており、そこには山積みの野菜や果物があった。
「………」
山積みの野菜と、それを抱えるユーマの迫力に、なぜか私がたじろいでいると、ユーマはすれ違いざま、何かを思い出したように足を止める。
「？」
どうしたのかと振り返った私は、突然過去に無い体験をする羽目になる。
「ムゴッ……」
視界の隅に見えるのは、鮮やかな赤。
それがいったい何なのかを把握するのに、数秒かかったものの、やがて私はその正体がトマトだということを認識する。
そして、それが私の口の中に詰め込まれていることに。
若干息苦しさを覚えて、とりあえずそれを手に出そうとする。
かじりかけていただけのトマトは、まだ十分原型をとどめており……
「…ゥグッ……」
「食べ物粗末にすんなよ？……一滴でも零したら承知しないからな」
手に出そうとした私よりも先に、ユーマは更にトマトを押しやった上、脅迫じみたことを言う。
慌てて首を振って、そんなつもりは無いのだと伝える。
そして、それではユーマの言うことに対しての同意にはならないのだと気が付き、首を縦に振りなおす。
「おい……挙動不審やめろ」
それを見たユーマの呆れた視線に気づき、私はユーマに何かを伝えるのを諦め、トマトを食べきることに専念した。
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