百十一話 ページ39
妓夫太郎の前に立つは一人の隊士。先ほどまで共にいた少女がどこにも見当たらない。
「んん?寧塑寺Aはどこいったぁ?」
(コイツ、アイツの名前も知ってやがる…)
鬼殺隊員である以上、個人情報は他人には漏れないような仕組みになっている。
つまり妓夫太郎達は本気でAを連れて行こうとしているようだ。
何でかは知らんが。
「…一般人を逃がさせた」
「手間のかかる事してくれたなああ」
妓夫太郎はガシガシと肌を掻きむしり、そして音柱を見やった。
「やっぱりお前違うなぁ、今まで殺した柱とは違う」
上弦を前にしてここまで堂々とした人間は初めてだったらしい。
彼は物珍しそうに、それでいて妬みを露わにして言葉を吐き出していく。
「お前は生まれた時から特別な奴だったんだろうなぁ、選ばれた才能だなぁ。妬ましいなぁ一刻も早く死んでもらいてぇなぁ」
その言葉に音柱の眉がひそめられる。
「…才能?ハッ」
流れる血の奥の瞳が苛立たし気に光った気がした。
「俺に才能なんてもんがあるように見えるか?俺程度でそう見えるならお前の人生幸せだな」
不快そうに絞り出される言葉は、音柱自身に向けられたもののようにも感じられた。
「俺が選ばれてる?ふざけんじゃねぇ。俺の手の平から今までどれだけの命が零れたと思ってんだ」
彼は優しい。それはもう、優しすぎるほどに。
誰よりも失われた命に心を痛め、また誰よりも今ある命を守ろうとする、優しい人。
「…」
その様子を窺っていたAは顔を歪ませる。
合図があるまで来るなと目で言われたが、どうも無理みたいだ。
「俺はそんなアンタだったから継子になったんだ」
二階に空いた穴から飛び降りる。その勢いのまま刀を振りかぶる。
極限まで薄めた気配のおかげで気付かれない――。
「――血の気多ぇなあぁ」
「!」
すみません嘘です。普通にバレました。
そうでも思っとかないとやる気でないんです。
妓夫太郎がぐりんっ、と気持ち悪いぐらいの勢いで振り向いたため音柱の横に着地する。
「…まぁお前が言う通りにしてくれるとは思ってなかったがな」
いやそんな事よりも。
「オラ宇髄さん。俺いたの知ってましたよね、知ってて爆弾投げましたよねオラ」
「あぁ悪い、気付かなかったわ」
「アンタの元忍って肩書は飾りっスかそうっスか」
仮にも元継子がいる所に向かって爆弾投げやがったんだコイツ。
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月18日 18時