六十七話 ページ27
逃走のために両腕を犠牲にした猗窩座はすぐさま再生。
そのまま森の方へ駆け出す。
だがそれを逃がす程、鬼殺隊も生ぬるくない。
「!!」
迫りくる気配を感じ取った猗窩座が振り返る。
その直後、
「…っ!」
彼の胸部を炭治郎の日輪刀が貫いていた。
先程自分が炎柱を貫いたのと同様に、猗窩座もまた炭治郎の刀に貫かれた。
「逃げるな卑怯者!!!」
負傷している腹から声を出し、炭治郎は叫ぶ。
叫んでも何にもならない事は分かっているが、叫ばずにはいられなかった。
「お前なんかより…煉獄さんやAの方がずっと凄いんだ!!強いんだ!!煉獄さん達は負けてない!!誰も死なせなかった!!戦い抜いた!!守り抜いた!!」
「…」
「お前の負けだ!!煉獄さん達の!勝ちだ!!!うああああぁぁぁああぁあっ!!!」
赤みがかった彼の瞳から涙が溢れ出る。
他にどうすればいいのか、炭治郎には分からなかった。
「…」
その様子を呆然と見つめていたAの肌に朱線が走った。
それを皮切りに次々と傷が現れ彼女の白い肌を裂いていく。
「寧塑寺少年…」
「いいんス、あなたに比べれば別に、大した怪我じゃないっスから」
『天満月』
それは月光を吸収し、それを力に変えて日輪刀に乗せる型である。
他の型を上回る威力で、下弦程度であればどんな状況でも首を落とせる。
上弦に通用するかは分からなかった。だから足で試した。
ただし月が出ていない場合、本来なら月光から受け取れるはずの力はA自身の身体から吸収されるため、使用後に肌に細かい擦傷が現れる。
今回の場合夜明けであったため、当然月は無い。
「親分もさ、泣きたい時は泣けよ?」
頬の血を拭いながら傍に立つ伊之助にそう言うと、やがて彼は無言で抱き着いてきた。
微かに震えている。
「…」
その背をぽんぽんと優しく叩いてやりながら、Aは小さく唇を噛む。
泣きたいよなぁ。
こんなに頼りになる人がいなくなっちゃうなんて、悲しいよなぁ。
お前も、炭治郎も、俺だって。
初めて会ってから全然経ってないけど、やっぱ悲しいもんな。
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月12日 18時