六十六話 ページ26
ぴちゃんと血が滴る。
強い意志の宿る瞳は片方しか開いていない。
死ぬ。
煉獄さんが、死んでしまう。
「俺は俺の責務を全うする!!ここにいる者は誰も死なせない!!」
未だ冷めやらぬ炎が彼の右目で燃え上がった。
背を向けているから直接は見えないが、絶対にそうであると確信が持てた。
「っく…」
「――じっとしてろ」
炎柱の助太刀に入ろうと藻掻く炭治郎に、不意にAが言った。
「今動けばお前の両足の骨をへし折る」
「っ…!!」
炭治郎からAの表情は窺えない。
ただその低い声色と、震えるほどに力が込められた拳だけが炭治郎の目に焼き付いた。
・
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山々の間から陽光が覗く。
薄明りを帯び始めた東の夜空に猗窩座は顔を歪めた。
炎柱に致命傷を与えるつもりで突き出した腕が、彼の胸部に突き刺さって貫通している。
決定的な一撃。もう彼は助からない。
猗窩座は逃走しようとした。
腕を引き抜こうと力を込める―――。
(! 腕が…抜けん!!)
消える事を知らない炎が猗窩座を穿つ。
「逃がさない」と告げていた。
「オオオオオオオオォォ!!!」
血の底から突き上がるような恐ろしい絶叫。
猗窩座は太陽から逃れるべく両足に力を込めた。
その時である。
「!?」
ガクン、と猗窩座の視界が下がった。
『朔の呼吸』
青碧が揺らめく。
『伍ノ型 天満月』
これには炎柱も目を見開く。
猗窩座の両足を切断したAが静かに着地した。
「何故ッ…」
「俺、これでも柱なんで」
にしっ、といたずらっ子のような笑顔で、彼女は己の手の甲を掲げて見せる。
群青色の「朔」と言う文字が静かに存在していた。
「このっ…小娘がァ!!」
「っ!」
Aが現れた事で炎柱の意識が逸れる。
その隙をついて猗窩座が飛び上がった。
三秒にも満たない内に斬られた両足を再生したのだ。
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月12日 18時