藍沢先生…！！5

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治療を受けると決めた日から、3日が経った。


本格的な治療を昨日から始めた俺は、抗がん剤で止まらぬ吐き気とめまいに襲われていた。


白血病は、かなり強い抗がん剤を使う。

……通常の癌とは違って、吐き気だけではなく
出血すれば、止血しにくい為、大量出血になることもある。




………このまま、自分は死ぬんじゃないかとさえ思う。


別に、死ぬことに恐怖はない。


ただ、何も伝えないまま、この世を去ることだけは避けたかった。



「……ｯｯ、ｳｪｯｯ､ｵｴｯ､ﾊｯｳｯｹﾞﾎｹﾞﾎｹﾞﾎﾞｯｯ」

堪え切れなくなって、名取が置いておいてくれた袋に吐き出す。


……吐き気出てきたら、ナースコール押してくれ、そう言われたけれど、そんなことは出来なかった。



＿＿＿＿自分の病室からは、ヘリが良く見えた。



今朝から何度も何度も行き来しているのだ。
……おそらく、大きな事故でもあったのだろう。

こんな時に役に立つことの出来ない自分が嫌だった。
忙しい時に、俺がナースコールを押せば、仕事を増やして混乱させるだけ。

一人で出来ることは、自分でやらないと…


そんなことを考えながら、副作用に耐えていた。


＊＊＊

藤川side


昨日の夕方辺りから抗がん剤治療を始めた藍沢。

昨日の夜から今朝にかけても、吐き気はあったはずなのに、ナースコールは1度もなかった。


……アイツはまた、一人で抱え込んでいるのだろうか。

……それとも、アイツに気を使わせてしまっているのだろうか。


俺達同期はもちろん、フェロー達にも気にかけてもらうようにはしているものの、今日は大規模災害で一日中出動しっぱなしだった。


……きっと、あいつはそれを見てたんだ。

昨夜、あいつが寝静まった後に病室に入ったら、
あそこからは思っていたよりもヘリが良く見えた。


どんな思いで、ヘリを見ているのだろうか。

どんな思いで、過ごしているのだろうか。


そんなことを考えれば、こっちまで辛かった。


……本人は、もっと辛いだろうけれど。





ついさっき、他のナースに聞いた話では、
俺らが出動している間、藍沢が吐瀉物が入った袋を、きちんと処理してから、職員の使うゴミ箱に捨てるところを見たらしい。



人は1人でも、生きていける。

……けれど、一人で生きていくことなんて、到底無理だ。



自分を支えてくれる人が居てこそ、生きていけるのだ。



俺たちは、大切な…けれども基本的なことを、見落としていたのかもしれない。

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