五十六枚目 ページ10
赤司side
顔は見えないが、きっとめんどくさそうな表情をしているだろう山梨を無視して、俺は話し始める。
「さっきも言った通り、俺たちが初めて会ったのは六歳の頃だ。確か…服装からして秋くらいだったと思う。
俺は父と母に連れられ、いろんな財閥を集めた、…山梨財閥主催のパーティーに来ていたんだ。
知らない大人たちが俺たちを囲んで、見え透いた下心を持って話しかけてきたよ。六歳ながらも息が詰まる思いをしていたのを覚えてる」
そこで一旦話を止め、山梨の方に視線を移すと、彼女は足をプラプラさせていて聞く気のない態度が見て取れた。
…聞くそぶりくらいはしろよ。
「神経をすり減らしてなにも楽しくない時間が、日が暮れても続くんだなって。
俺はしばらく父の隣でうんざりしながらも笑っていた。けれどやっぱり子供には退屈で仕方なかったんだ。少し中庭を見てみたいと父に言って、その場から離れた。…そして、その中庭で君と出会ったんだよ」
山梨が俺の方をちらりと見た気がした。
多分、この様子だとまだ全然思い出していないんだろう。
もうそれでもいいか、とだんだん思い始めてくる。
__『あれ!あなただれ〜?あそぶ?いっしょにあそぶ?』
無邪気な笑顔。
大人たちの張り付けたような笑顔をさっきまでずっと見ていた俺には、会場にあったシャンデリアよりもその笑顔が輝いているように見えた。
そして何よりも、彼女の瞳が、オレンジ色の瞳が、とても綺麗だった。
その色を俺はずっと、忘れられなかった。
__『うちのおばあさまがたしかわたしとお友だちになれそうな子がいるって言ってた!きっとあなたのことね!』
にこにこと無害な顔して俺に近づいてきた。
本当に救われた。
この子の純粋さに。汚い大人たちに嫌気がさしていた俺は。
あの時のことを改めて思い出し、今の山梨とあの頃の女の子を比べてみて、ありえないくらい変わったなと思う。
「ほんと、同一人物か疑うよ」
「…違うんじゃない?赤司を救った女の子と私。
私はパーティーに行った記憶もないし、そもそも……私、昔の記憶ほぼ無いから」
「どういうことだ?」
眉間にしわが寄る。
幼少期のことを覚えていない人は多い。が、そういう意味で言っていないことは、何となく読み取れる。
まるで、それは…記憶喪失。
「山梨」
「ごめん、話してもらったけどやっぱりあんたと幼少期に会った記憶はない。
ま、これからもマネと選手としてよろしくね」
山梨はそう言い、布団を揺らして足早に帰って行く。
俺は、そんな山梨を止めなかった。
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こたきんぐ(プロフ) - 。さん» お返事遅くなりすみません!いいえ…完結ではありません…続きます…また近々ぼちぼちあげます(泣) ありがとうございます! (2022年11月7日 23時) (レス) id: 7882bc78cd (このIDを非表示/違反報告)
。 - 面白くてイッキ見しちゃいました!ちなみにこれは完結なんですか? (2022年10月30日 22時) (レス) @page36 id: 309377f64b (このIDを非表示/違反報告)
こたきんぐ(プロフ) - (名前)まいさん» ありがとうございます!ぼちぼちやってきます…!! (2021年8月28日 12時) (レス) id: 7882bc78cd (このIDを非表示/違反報告)
(名前)まい(プロフ) - 最高 (2021年8月14日 22時) (レス) id: ec16fd7069 (このIDを非表示/違反報告)
こたきんぐ(プロフ) - ぼた餅さん» ありがとうございます!お返事遅くなり申し訳ないです…。ほんと自分のペースになるんですが頑張らせていただきます! (2020年8月16日 17時) (レス) id: 7882bc78cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こたきんぐ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Kotakinnhu/
作成日時:2020年5月23日 20時