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少しの間沈黙が訪れて、時計の音が響いた。
その中でやっと発せた言葉は「うん」の一言だけだった。その一言すら震えていた。
数センチの距離のままお互い見つめ合って、俺らは何も言わずにキスをする。
乾いたリップ音が鼓膜を震わせた。
ぐっと手に力が籠ったのも知らないフリをして、俺は彼女の瞳とただただ目を合わせたままにする。
『キスはもうしてくれへんの』
「…分かんない、ごめん」
『……ほんまアホ』
上手く笑えていたかは分からないが、俺は目を細めて口角をほんのり上げようとした。
本当はぼろぼろ涙を零してしまいたいところだが、そんなところを彼女に見られたくはないな。
Aは俺の顔を見つめた後、小さく笑う。
俺は悪戯っぽく笑う彼女に、また恋をした。
この複雑な関係は、きっと彼女が断ち切ってくれるまで続くのだろう。
本当はAの一番でありたいが、彼女が空けてくれているのはいつだって二番目だ。
「センラ？」
Aは俺の顔を見て、少し眉を下げた。
そして先程の俺のように両頬を手で包んで、目元を親指で拭う。
「…センラ、泣かないで」
『泣いてへんよ』
「泣いてるよ」
Aのその言葉を聞いた途端、視界が滲んできて「あ」と声を上げる。
一度瞬きをすれば、頬に生暖かい涙が伝うのが分かった。
「…ごめんね、ごめんね、センラごめんね」
Aは俺の顔を見て、自身も涙を零した。何度も何度もごめんね、と繰り返すAに胸が苦しくなった。
失恋ってこんなに泣く物なんや、と何処か他人事の様に思う。
彼女の傍にいられればよかったのに、自分はいつからそんなに欲張りになったのだろうか。
「好きになれなくて、ごめんね」
俺も、好きになってごめん。
口には出せるはずもなく、俺は返事をするように抱きしめる力を込めた。
彼女からふわりと香ってきたそれは香水でも他の男の匂いでもなく、彼女自身の物だろう。
冷たくて、でもどこか優しい匂い。一番好きな香り。
例えるなら、そう。
君の香りは藍色だ。
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書いた人＿もものせ
歌い手様＿センラさん
今回センラさんのお話を描かせて頂きました、もものせと申します。RONON様にお誘い頂き、初めての大型合作に参加しました。どきどきわくわく。楽しんで頂けたら幸いです。
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