001/桜の樹の下には死体が埋まっている ページ1
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「……ね、ねぇ、キミ」
小さな小さな声だった。
今にも消えそうな、疲れの滲んだ声。
「なに、食べてるの?」
幼い彼はゆっくりと首を横に向けた。
声の主は少女だった。幼い彼よりと歳はそう変わらないだろう。
目元を前髪で覆い、顔はよく見えなかったが、その背におおよそ合っているとは思えない大きさの散弾銃を担いでいた。
あと一口。口の中のものを飲み込み、それを放り込もうとした彼はすぐさま地面に置いていた刀を手に取る。
鞘はもう取り払われていて、刀身は欠けていて、ぬらぬらと血糊によって輝いていた。
ここは戦のあった地。
死体も刀も大量に転がっている。
その生のない場所で、彼と少女は生きていた。
「ヒッ、あ、あの、ちがうの、キミを傷つけようとは思ってなくて、えっと」
その刃が、彼から発せられる殺意が、己に向いていると理解した少女は慌てて銃を地面に落とす。
敵意はない、ということを示すためのようだった。
「わ、わたし、お腹が空いてて……それで、なにを食べてるのかなって気になって、あ、えとね、べつに奪おうとかは思ってないから大丈夫だよ、ほんとだよ!」
それでもなお、彼は刀をおろすことはなかった。
少女は困り果てたように口元を曲げる。
「だ、大丈夫だよ。信じられないかもしれないけど……信じて」
むちゃくちゃなことを言う。
だが、少女の声に嘘は感じられなかった。
「…………」
「…………」
長い長い沈黙が流れる。その間、少女も彼も微動だにしなかった。
やがて動いたのは、彼。
「………………死体から取った握り飯を食ってる」
抑揚のない、平坦な声が少女のほうへ飛んでくる。
彼は地面いっぱいに散らばっている死体を適当に漁り出した。
少女はとにかく、彼からの殺意が消えたことに安堵して息を吐く。
「……これ」
彼は顔を上げ、少女に向かってなにかを放り投げた。
少女は目を見開いてそれをキャッチする。
土と血に少しばかり汚れた、握り飯だった。
「汚れてるけど、食える」
少女は握り飯についていた汚れを払い、大きく口を開いてそれを頬張った。
汚れなど、土など、血など、今の少女には無意味なものだった。腹を空かせた少女は、そんなことを気にする素振りもなく、一瞬でそれを食べ終わってしまう。
「あ、ありがとう、美味しかった」
ずっと下がりっぱなしだった少女の口角が緩やかな弧を描いた。
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弥生 - そして先生と夢主って…!と思います^_^; (2021年11月2日 10時) (レス) id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 銀さんとのやりとりかわいい…! (2021年10月28日 12時) (レス) @page12 id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 自分のペースで良いですよ!(*^^*)夢主の成長が楽しみです!(*^◯^*) (2021年10月17日 10時) (レス) id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
ふじ(プロフ) - 弥生さん» 弥生さん、コメントありがとうございます!最近更新ができていなくてすみません🙇♂️これからぼちぼち更新していこうと思っています!どうぞよろしくお願いします🥳 (2021年10月10日 12時) (レス) @page10 id: 9f078bb16b (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 夢主と銀さんの絡み方が可愛いですっ╰(*´︶`*)╯夢主の父親はどんな人かとか気になりますっ!続き楽しみです!(*^^*) (2021年10月6日 9時) (レス) @page10 id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふじ | 作成日時:2021年9月20日 0時