５４．風邪 ページ8
蒼が自分のことについて調べ始めてから２週間
ついに紅炎が帝都に帰還した
皇帝や皇后に謁見し、遠征の成果を伝えた後
紅炎は自分の側近を探し始めた
帰還があまりにも急だったため、出迎えに蒼夜の姿はなかった
きっと伝わっていなかったのだろう
紅炎は書館の前に立つ
約１ヶ月ほど前、青秀を帝都に行かせてから
蒼夜はずっとこの書館の中にいるだろうと予測していた
だが
「…いない」
中には人の気配はなく
代わりに書物がきれいに整頓され、ご丁寧に清掃までされている
(あいつがやったんだろうな…)
全く几帳面な女である
それにしてもその几帳面な女はどこへ行ったのだろうか
ふと思いつき鍛錬場へ向かう
しかしそこにも蒼夜の姿はなかった
紅炎は立ち止まり考える
何かよからぬことでもあったのだろうか…
まさか逃げたか…
(それはない。蒼夜は意地でもやり通す女だ。俺が帰ってくるまでいるはずだ)
しばらく考えながら歩いていると
白瑛の部屋の近くに一人の女が倒れているのを見つけた
その服装には見覚えがあり、髪の色も白銀だ
だがその髪も少し艶がない
手も足も以前より痩せ細ったように見える
紅炎は近寄り、その顔を見る
間違いない。自分の側近の蒼夜だった
ハァハァと浅い呼吸を繰り返し
額には汗が浮いている
蒼夜の身体に触れると、すごく熱かった
紅炎は蒼夜を抱き起し、声をかける
「おい、蒼夜。大丈夫か？」
『…ッ。こ、うえん…さま？』
蒼夜が反応する
紅炎は頷くと、蒼夜はニヤリと笑った
『すいま…せん。私はもう…ダメ…です。後は…任せ…ました…』
そう言ってまたぐったりと身体から力がなくなり意識を失う蒼夜
紅炎は眉間にしわを作る
顔が引きつっているのが自分でも分かった
紅炎は怒っていた
(この女…風邪なんぞ引きやがって…)
何が「もうダメ…」だ
なぜ白瑛の部屋の前で倒れているのか
なぜ意識を失うまでになったのかは知らないが
絶対治させてまたこき使ってやる
紅炎は蒼夜を抱えて自分の部屋へ戻って行った
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作者名：悠葉 | 作成日時：2018年3月7日 0時
