６．母ノ稽古 ページ38
「お、お前…剣の練習って……」
『やろうと思えばできるんですよ？だって私の父は鍛冶屋ですから！』
ニヤリと笑うA
『それにこんな時代です。いつ街が襲われても仕方がない…それに紅炎様のお役に立ちたい。ならば、一緒に戦えるようにならないと…！私の父も母もすっごい強いんです。だから教えてもらいます』
Aの眼はいつにも増して決意に満ちていた
紅炎が何を言っても、その決意を曲げないだろう
だから、いくら心配しても、いくらその体に傷をつけてほしくないと願っても
Aはその道を突き進んでいくだろう
自分の隣で戦うために…
「……確かに体は細いが、しっかりしている。速さに特化したらいいんじゃないか？」
『本当ですか！？“速さ”か〜』
自分の腕を曲げ伸ばししながら呟くA
その姿を見ながら、紅炎は何とも言えない複雑な感情を胸に持っていた
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(私は……この人が好きだ)
出会ってから２年
Aはこの国の第三皇子の素顔をいろいろと見てきた
主君やその太子らを追いかけるその姿
共に戦いたいという強い想い
たまに見せてくれる優しい笑顔
それら全てを自分は好きになった
でも…
(私は平民。あの人は皇族)
１０歳の自分でも分かる
この国で最も尊き一族と国民など天と地の差
自分は好きになってはいけない人を好きになってしまった
(だから私はこうやって剣の練習をしているんだ…！！)
たとえ叶わぬ恋でも
自分が強くなり、あの人の隣にいて十分な存在になったら
部下として自分を置いてくれるだろうか
いや、そうなってみせる
絶対になってやりたい
あの人の隣で剣を振るいたかった
「こーら、A！動きが鈍ってるよ！」
『う、うん！ごめんなさいお母さん！』
母の名は
母の稽古は厳しくも優しい
自分が剣を教えて欲しいと言ったとき、両親は複雑な表情をしたが納得してくれた
そして、かつてとある貴族の家に仕えていた母が教えてくれることになった
「さあ、お母さんの稽古を乗り越えてみせなさい！」
『お、おす！お母さん！！』
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作者名：悠葉 | 作成日時：2018年3月7日 0時
