６３．名前 ページ17
紅炎はもうしらばっくれるのをやめることにした
何をしらばっくれるのをやめたのか…
「兄王様。まさか自分の部下に惚れるなんて……」
「ああ。まさかだな」
自分が眷属で側近である蒼夜を完全に惚れてしまったということに
紅炎はため息をつく
自分の目の前にいる紅明もため息をつく
ここに紅覇がいなくて本当に良かったと思う
「蒼夜はあなたの側近ですよ。いくら何をしても許されるような立場でも手を出したら彼女の行き先は見えているはずです」
「……」
「それに、平民です」
「人間に差などない。皇族だろうが平民だろうが同じだろう」
「それでも、彼女は気にしてしまうのでは？」
「……」
自分の実弟は痛いところをついてくる
そもそもなぜこんなにも蒼夜を好きになってしまったのだろう
眷属になったからか
懐かしい感じがしたからか
自分の駒として使えるからか
だが、どれも違う
(放ってはおけない。自分のものにしたい。あの時からそうだ…)
紅炎の思うあの時とは、今から９年ほど前のことだ
夢の中に出てきたあの少女は間違いなく蒼夜だ
自分も調べているうちに確信した真実
それは幼いころに紅炎と蒼夜が知り合っていたということ
なぜ知り合っていたのか分からない
彼女の街も名前もあやふやだ
「あいつの……名は何だ…？」
「え？蒼夜でしょう？」
紅明は当たり前だというような顔で言う
だが紅炎は首を横に振る
自分はなぜあの少女が蒼夜だと確信しているのに
街も名前もあやふやなのだろう
完全に矛盾している
「紅明」
「なんですか？」
「…あいつが敵だったらどうする？」
「…国外ではなさそうですね。考えるとなると…“月華”ですか？」
「……」
「殺しますよ」
紅明は即答したが、少し目が陰っている
悲哀の感情が入ってしまったようだ
「そうか」
「…はい」
「お前はそれでも、俺は殺さない」
「…兄上！！」
「そう怒鳴るな。もしそんな過激な思想があれば、アシュタロスが眷属にするはずがない」
「ですが…！」
「俺は月華も、蒼夜も欲しい。幼き頃の記憶も全て取り戻したい」
紅炎の眼が鋭く光る
それを見て紅明は本日何度目かのため息をついた
「…あなたがそうお考えなら、私は止めません」
(自分でも本当に馬鹿な方針だと思うがな…)
紅炎は目を伏せた
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作者名：悠葉 | 作成日時：2018年3月7日 0時
