【文スト】故意じゃない【太宰治】 (ページ2)

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今日は厄日だ。
ケータイの支払いは明日だと思っていたが、それは勘違いだったようだ。思わぬ出費である。
お金がないくせに、スマホとガラケーと2つ持っているせいで一度の支払い料金は多額だ。今日はもうネットカフェに入るお金がない。かと言って、こんな時間に募集のツイートをしても反応してもらえるとは思えない。
もう夜だ。久しぶりに野宿か、と思うと気が滅入ってしまう。

もう裏路地で誰か引っ掛けようかな。なんて甘い考えで、人気の少ない暗い道に入った。
ここを通るのは危ない仕事をしている人ばかりだと、以前聞いたことがある。本当かどうかはさておき、野宿は嫌だし、声をかけてみる価値はある。

通報するような善人だったら話は別だけど。

ぼんやりとケータイの画面を眺めている時だった。

男性の靴独特の、コツリ、と言う音が耳に入って顔を上げた。

音の方を見ると、包帯を巻いた細身の男性が此方の道に足を踏み入れるところだった。

まだ私に気付いている様子はなく、下を眺めるように俯きながらただ淡々と、一定のテンポで足を進めている。

誰だろう、あの包帯から見える怪我の様子的に危ない仕事をしている人だろうか。なんて勝手な推測をしていた。

そして同時に、私は迷っていた。声を掛けるか、掛けないか。
いや、そもそもこの路地に来たのは人を引っ掛ける為だし、普通に考えたら声を掛ける以外に選択肢などないのだが。

何故か、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせているその人に話しかけることに怖気づいてしまっていた。

ここからその男性までもう距離は僅かだ。考えている時間は無い。それに、今までだって何度もしてきたことじゃないか。

と、自分に言い聞かせて立ち上がった。
そしてそれと同時に私に気がついた様子の彼の方へ歩く。

「こんばんは、お兄さん。今夜お暇ですか？」

「…今夜かい？そうだね、今からは空いているよ。」

…うわ、この人。めちゃくちゃかっこいい。片目は隠れているけど、整った顔立ちをしているのは明白だ。

「あの、私、今夜寝る所と明日の生活費に困っているんです。」

＿なので、今から、

「ああ、なるほどね。いいよ。」

私が言い終わらないうちにその人は口を開いて、了承の返事をした。