松野家の隣人ちゃん2 (ページ26)

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*あつし

休日､彼女にあの図書館に呼び出された｡

今にも泣き出しそうな顔をした彼女は
きゅ､と下唇を噛んでずっと俯いてる｡

『…』

「どうしたの?」

『あのね…』

あの､と言いかけたところで彼女の肩が
びくりと上下に震え､両手で顔を覆い
嗚咽を漏らして泣き出してしまった｡

何が何だか僕にはさっぱりだ｡

「なにかあったのかい」

『うん､うん』

「体調悪いなら」

『そういうんじゃないの』

伸ばされた横髪が俯いた彼女の顔を
ほとんど隠してしまっていた｡

背中をさするとAちゃんは一歩二歩
前に出て僕に身体を預け､背に手をまわす｡

「怒らないから､話してごらん」

『…あのっ､ぅ』

「話したくなったらでいいから」

嗚咽に震える背中を優しく撫でて
もう片方の手で柔らかい髪の毛に触れた｡

汗ばんだ髪が指に絡んで､行かないでと
僕に必死に訴えかけているようだった｡
君を置いていくわけないのにね｡

『あ…あつしく……』

「なんだい」

『……わかれ､て…ください』

胸にぽっかり穴が空いたみたいだ｡
喉がキュッとなって目の奥が熱くなる｡
こんなに胸が痛んだのは何年ぶりだろうか｡

でも､なんとなくそんな気はしてたんだ｡
本当は分かってたんだよ心の奥底で｡

君が好きだから認めたくなかった｡

『ごめんなさい』

「いいんだ謝らなくて」

付き合ってもらってたんだから｡
君が謝る理由はどこにもないんだ｡

「無理をさせたね､すまなかった」

『っちがう､違うの…』

落ち込んだ顔さえ見せたことのなかった
彼女がそれを通り越して泣いてる｡

何か理由があるんだと思った｡思いたかった｡

嫌いって理由で終わりたくなかった｡
僕は自分が思ってたより我が儘らしい｡

「なら､どうしてそんなに泣くんだい」

『だって……申し訳な…な､なくて…』

「僕のこと､まだ嫌ってないのかい」

そう訊いて後悔した｡

『………すき』

小さいのに破壊力抜群のひとことと
僕の顔を見た､涙に濡れた彼女の頬が
確かに赤く染まっていたものだから

愛しい気持ちと抱き締めたい欲求を
なけなしの体力と理性で抑えた｡

「何か事情があるんだね」

『うん』

「なら仕方ないさ､友達としてよろしく頼むよ」

『……ありがとう』

初めて好きだと言ってくれた｡

君からの好きをもらえたんだから
いま､僕はこの世の誰より幸福者だよ｡

例え､どんな状況だとしてもね｡

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