松野家の隣人ちゃん2 (ページ23)

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休日､松野家にお邪魔しようかと
家から出れば久々の黄色パーカー｡

『あれ､十四松?』

「あ､Aちゃん」

『素振り?』

「うん！」

『久し振りに着いてっても』

「だめ」

『え』

キャッチボールでもしようかと思ったのに｡
きょとんとする私をみて五男は目を細める｡
細めただけの目と上げただけの口角｡

珍しいなこんな笑顔｡ちょっと怖い｡

「今日行くとこはちょっと危険だから」

『な､なら十四松も行かない方が…』

「僕はへーき！」

袖から出された手が私の頬を撫でる｡
ちゃりん､と小さな金属音がした｡
冷たい音に背中がぞくりと震える｡

『じゅっし…なんか持ってるの…?』

「?小銭かなぁ」

『…怒ってる?』

十四松の肩をつかんで軽く揺すれば
ちゃらんちゃりんと足元に何か落ちた｡

銀色の､細くて小さいのがいくつも｡

釘だ…これ｡

『じ…十四松……』

「大丈夫､君に怖いことは何もないよ」

『いやいやいや駄目だからこんなの』

「Aちゃん」

『やめてよ､やめようよ危ないのは』

肩をつかむ指が小刻みに震える｡
零れそうになった涙は瞬きで誤魔化した｡
釘は危ない危険｡はやめに止めないと｡

「しあわせになって欲しいんだ､ぼく」

『…え』

「Aちゃんのこと､だいすき…だから」

ぱたり､コンクリートに染みができる｡

彼がぽつりぽつりと話すのと同時に
十四松の大きな瞳から零れた涙が
地面をどんどん濃い灰色にしていった｡

「でも…でもっ…ぅ」

『…』

「君が､他の男といるの…やなんだ」

『…』

「さいてーだ…ごめんなさい」

『そんなこと言わないで』

嗚咽まじりの声に耐えられなくなって
彼を抱き締めると予想以上の対格差に
すっぽり私は黄色に埋まってしまった｡

『泣かないで十四松』

「ごめんなざい…」

『謝んなくていいから』

「…」

『ずーっと大事な幼馴染みだから』

「ほんとに?」

『私もだいすきだから泣かないで』

大好きなんて言っていいのかな…｡
まぁこれは幼馴染みとしてのだから｡

「Aちゃんしあわせ?」

『じゅっしが泣いてたら不幸かも』

「えっ」

ぐしぐし長い袖で涙を拭うと
にこーっと笑ってくれる十四松｡

多分この笑顔はあと数秒で崩れちゃうから｡

『この釘もらっていい?本棚壊しててさ』

「いいよ､ぼく直そうか?」

『んー大丈夫！素振り行ってら』

「行ってきマッスルッ！」

釘を回収して家に戻った｡

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