松野家の隣人ちゃん2 (ページ20)

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『お邪魔しまーす…?』

学校でイッチの元気がなかった｡

通路をはさんだ隣にいる彼だけど
今日は目も合わせてくれなかった｡
目の下のくまも濃くなってた気がする｡

『…』

何だか様子がおかしいと思って
スーパーで買った煮干し片手に
久々に私は松野家にお邪魔した｡

いっちのサンダルは玄関になく
奥の部屋に青色のパーカーが見えた｡

『あれカラ松…ねぇイッチは』

「Aか」

『へっ?』

いつもは「いらっしゃいハニー！」って
無邪気な満面の笑みで出迎えてくれるのに｡

A､なんて久々に呼ばれた｡

振り返って私に向けた視線がひどく冷たい｡

『な､なんか怒ってる…?』

「彼氏できたんだってな」

『え､ぁ……う､うん』

確かに私はあつしくんとお付き合い
してることを彼らにまだ言ってない｡

そのことを怒ってるのかな…?

いやでも何で知ってるの｡

『ねぇカラ松､怒ってるの?』

「怒ってなんかいないさ」

『でも』

こわいよ､と言おうとした頃には
カラ松は私の目の前に来ていて｡

「…で､もうしたのか?」

『え?なにを』

「もうその彼氏とやらにAは
　股を開いたのかと訊いているんだ」

予想外で身構えてなかった質問に
顔がカッと熱くなるのを感じる｡

なんで､普段はそんなこと訊かないのに｡

「会って間もない相手でも」

『待って』

「頼まれたら簡単に身体を許すのか?」

『待ってよ』

「そういう女だったのか､お前は」

『ねぇ待ってってば』

「それなら､俺が相手でもいいだろ」

彼の大きな手が私の胸をわし掴む｡

握り潰されるような痛みに耐えてると
ドンッ！と近くの壁に押し付けられた｡

目と目が合った瞬間､やばいと思った｡

ゆっくりだけど彼の顔が近付いてくる｡
キス､されちゃう｡駄目､だめだめだめ…ッ！

「…」

あと少しのところで彼が止まった｡
吸った空気に彼の香水のあまい匂い｡

『からま…』

「そんな顔しないでくれ」

『う……ぅぅ』

「泣きたいのは俺の方だ」

涙が溢れそうな瞳でカラ松を見ると
眉間に皺を寄せて今にも泣きそうな顔｡
その顔にぎゅっと胸の奥が握り潰される｡

すまない､と小さく呟いたカラ松は
私をそっと抱き締めて背中をさすった｡
厚い胸板に今だけと頬をすり寄せる｡

「しあわせにな､ハニー」

『……ごめん』

口から漏れたごめんの理由は
何故だか私には分からなかった｡

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