虎鶴の地 (ページ13)

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十一の貢ページ13

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雪原は続く。山の中腹に差掛けたあたりで日が沈みかけていた。

「今夜はここに泊まりましょうか。野営は……まぁ覚悟していましたし」

「凍死しないようにしないと。虎珪の凍死体を担いで下山なんてできませんから」

「ご冗談を、凍死しないように交代で火の番ですよ」

野営は慣れている。

冬の実りはほぼないため、貯蓄した粟をお湯に数粒浮かべて食べる。それでも賄えない分は狩猟で得るしかない。寒さと飢えに耐えながら、じっと獣が罠にかかるのを待つ。その辛さなど虎珪には理解できないであろう。

今だって、元から所持していた薬草を呑気に煮詰めているのだから。

「……何を作ってるの？」

「薬草を数種、粟と混ぜて煮込んで、粥にするんですよ。薯蕷の根と生姜、八角、干し肉を加えてクコの実を添えて食べようと思いましてね。温まりますよ」

「……具材をそんなにたくさん……肉なんてしばらく食べてなかったわ」

「では利鶴様の分は多めに」

「いいえ、同じ量にしましょう。貴方が作ってくれたんですからむしろ少なくてもいいくらい」

虎珪はそうしましょうと同意したのに、結局は量が同じでも、干し肉は私の皿にばっかり寄っていた。

久方ぶりの肉は八角のおかげでとても美味しくて、生姜も入って温かい。心から美味しいと言える味だった。

「虎珪、学者ではなく料理人になったらどうです？」

「都には腕のいい料理人が多いですから。僕も確かに料理は好きですけどね」

「うん、どっちかと言えば母が作りそうな味。私には母はいないけど懐かしいような感じの」

「……きっと母君ならもっと美味しく作るでしょうとも」

どんな味だろう。私の記憶にはない女が作る飯は、きっと覚えてもいないのだから、新鮮に感じる物の筈だ。

真心を込めれば、どんなに薄い粟の粥でも美味しい。理由があったかは知る由もないが、子を山奥へ預けるなんて、碌な人間じゃない筈だ。きっとそんな女が作った粥など不味いに決まってる。

「爺さんと虎珪の粥が食べれれば十分。それより食べたらまた、文字を教えてくださる？」

「もちろんですとも。意欲があるのはいいことです」

親の顔など、作る味など、なぜいないのかなど知らない。文字を氷雪へ刻む彼のことも知らない。今何が起きているかも知らない。

でも自分へ知る機会が回ってきた今なら、文字でも地理でもなんでも理解したいと思うのだ。