短編集『恋日記。』【Ｎ】 (ページ44)

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*渡海side*

「ﾁｯ…。」

「‥世良くん、来ちゃいましたね。」

小声でそう告げた彼女は、離れようとする。

‥丁度良い機会だ。

「A。」

「え？わ……っ、」

離れようと身を起こした彼女の腕を引っ張ると、

バランスを崩した彼女はこちらへ倒れ込んでくる。

「渡海先生、308号室の御村さん…、えっ…？

し、しつ、失礼しました…！」

世良がこちらに向かって来ていたのを知っていて、唇を重ねた。

ｶﾞﾁｬ…とドアが閉まる音がした後、

唇を離すと、ちゅ…っと小さなリップ音が鼓膜を撫でる。

「…ど、どうして、このタイミングで…っ、」

「‥お前は俺のだから。」

頬を紅く染める彼女に吐いてしまったのは、大人気ない俺の独占欲。

「…征司郎さん。」

「ん？」

吐露した気持ちに後悔しなかったのは、

彼女が嬉しそうに笑ってくれたから。

すり、と俺の胸に顔を寄せたAは、愛を紡ぐ。

「だいすき。」

「知ってる。」

今度寄せた唇は、誰にも邪魔されることなく重なった。

.

【You're mine.】Fin.