短編集『恋日記。』【Ｎ】 (ページ12)

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初めて呼ばれた名前にびっくりして、

彼の腕の中で固まっていると、

背中に回されていた彼の腕がするりと静かに解かれて、

体をそっと離される。

それと同時に、色素の薄いその瞳と視線が絡まる。

その瞬間、世界が止まったみたいに周りの音も何もかもが聞こえなくなった。

「好きだよ。」

彼の紡ぐ愛の言葉だけが、優しく鼓膜を撫でた。

「う、そだｯ…、」

「‥嘘でこんな小っ恥ずかしいこと言えっかよ。」

そう言った彼の耳は、ほんのり紅く染まっていた。

「Aが好きだよ。‥俺と付き合って下さい。」

思いもしなかった愛の言葉に、

さっき止まったはずの涙がまた一滴ﾎﾟﾛﾝと流れた。

「わた、し…もっ、二宮くんが、ｯ好き、です…っ。」

素直に気持ちをさらけ出した私を、彼はまた抱きしめる。

その背中に迷いながらも腕を回すと、

ｸｽっと意地悪な笑い声が耳元で聞こえる。

彼の匂いをｽｩ…っと吸い込んだ時、

密着していた体が離される。

彼の指が頬を滑って伝っていた涙を拭うと、

そのまま下に降りた彼の指は、

迷うことなく私の顎先を掬った。

強制的に合わせられた視線に耐えきれなくて、

思わずｷﾞｭｩｩｩ…と目を瞑ると。

「やっと俺のもんになった。」

彼にしては珍しい嬉しそうな声色で言葉が紡がれた後すぐに、

ふわり、と、優しく唇が触れた。

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【図書室のキミ*fin.】