おかえりがある家 ページ24
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「 はー……死にて 」
家に着いてからの第一声が「 死にて 」なのはどうかと思うが、今日一日だけでもかなり頑張ったと思う。
煙草の誘惑にだって勝ったし、死にたい欲にも勝ったし。
うん、頑張った私。マジ偉い。国民栄誉賞取れるレベルで偉い。
「 ……はぁ 」
いくらそう自分で自分を慰めても、気分が上がらないのは事実。
さっさと家に入ろう。そう思い鞄から鍵を探していると、自動で開く筈のない扉が、突然私の目の前で勝手に開かれた。
心なしか暗かった廊下に、ゆっくりと暖かい暖色の光が差し込んでくる。
そうか、確か、うちの廊下の電気って、この色だったっけ。
「 あ、やっぱり居た。Aさんおかえり。みんな待ってますよ 」
ドアの隙間から顔を覗かせたのは、エプロン姿の乾だった。
彼の姿を見た瞬間、何故か、灰色だった世界に色がついてくる。
なのに、折角鮮やかな世界を見ようとしても、肝心の視界はぐわんぐわんと揺れていた。
暖かいものが一筋、頬を伝う。
誰かが出迎えてくれるというのは、こんなにも嬉しいことなんだな。
「 ……なんで、私が居るって 」
「 あー、廊下に居た河村さ……くんが、シルエットがあるのになかなか入ってこない〜って教えてくれて 」
「 そ、か。河村くんがね…… 」
「 ……ほら、Aさん。早く上がってください。俺今日ハンバーグ作ったんで 」
「 ははっ、乾の手料理か。楽しみだなぁ 」
涙を拭いながら、乾の後を追う。
さっきまで、世界はあんなにも灰色だったのに。家の中は、こんなにも鮮やかだ。
リビングに入ると、いつもと変わらず出迎えてくれる小人達。
飛び交う「 おかえりなさい 」の言葉がひどく心に染み渡る。今日の私、大分傷心気味だわ。らしくねぇ。
「 おねーさん、だいじょーぶ?ないてたの? 」
「 いや、ただの欠伸だよ。心配してくれてありがとな、山本くん 」
「 お、おれだって、しんぱいしてたよ! 」
「 こーちゃんもありがと。てかもう、お前ら全員、我が家に来てくれてありがとう 」
彼らがここに来てくれなかったら、私はどうなっていただろう。
今頃ビルの屋上にでも立って「 あははは〜 」とか言ってたのかな。
おねーさんさ、もしまだ今の会社で働けるってことになったら、もうちょっとだけ、頑張ってみるよ。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月29日 18時