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忍足君の突然の告白は想像の範囲外だった。そんな噂を耳にしたことも無かった。それに、躊躇いや思い詰める表情もしないで、あまりにも滑らかに言ってのけたから、ただただ驚くばかりだ。
けれど、そっと光が射し込むような彼の眼差しは、澄んでいながらも寂しそうな揺らぎを宿していて、その想いが決して軽いものでないことを語っている。
そんな瞳に吸い込まれるようになっていたからか、やったと出た返事は普遍的すぎる相槌のみだった。
「そう、なんや」
忍足君は続ける。
「Aさんは宍戸が好きで、俺は鳴島が好き。宍戸と鳴島は付き合うてる。てことで、お互い協力すんのはどうかと思てな」
「いや、協力も何もないやん。もう既に二人は好き合って付き合うとるんやから」
「“今”は、な」
辺りの影が、ずん、と濃くなったように思えた。
「何それ。意図的に別れさせるって言いたいん? それ、私は賛成出来へん」
「なんも、意地悪して仲違いさせようって話とちゃうで? 心変わりさせんのはどうやっちゅう話。宍戸がAさんを好きになるか、鳴島が俺を好きになるかしたら、状況は変わるやろ」
「そんなことになったら、誰かが絶対に傷付くやん。私は、そんなん嫌やし、降りる。やりたかったら、忍足君が一人で勝手にしたらええやん」
そう言いながら、私の視線は落ちていった。
圧迫感もう初夏のはずなのに、空気が冷えてゆくのを感じる。
忍足君の足だけが見える。
彼は暫く黙った後で言った。
「それって、ええカッコしたいだけっちゃう?」
冷たい声。
その言葉の棘に刺され、痛さに驚いて顔を上げた。
忍足君の目が、底のない黒さで染まっている。
「『誰か一人でも傷付くのは見たくない』って、そんなん綺麗事やろ」
じん、と怒りがわいてくる。私は勝てないと分かっていながらも、反抗せざるを得なかった。
「ほな、忍足君はええの? 例えば万が一、宍戸君が心変わりして鳴島さんと別れたとして、それで鳴島さんがめっちゃ深く傷付いて泣いてても、忍足君はなんとも思わんの?」
「なんも思わんわけないやん。悲しなるわ」
「ほら、そうやん。せやったら――――」
「けど、こうも思うやろなぁ。『チャンスや』って」
「……チャンス?」
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます!感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます!とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます!(*^▽^*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2021年10月1日 17時