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「あぁぁ……怖かった……」
映画館を出ると身震いがした。未だに動悸が収まらない。おぞましい気配を背後に妄想して、何度も振り返ってしまう。
ちらりと隣を歩く忍足君を覗いてみる。彼の表情は、何事も無かったかのようないつも通りの忍足君だけれど、ふと目が合うと、意地悪な笑みを浮かべた。
「いやぁ、めっちゃ良かったわー。映画そのものよりも、Aちゃんの反応が」
「なっ！ しゃーないやん、ほんまに怖かったし、元々あんまり得意っちゃうもん」
そこまで言って、ハッとした。映画を見る前、ホラーが苦手と知られたくなくて、あくまで苦手ではない風を装っていたのだった。
「苦手やったら、はじめにそう言やええのに」
忍足君はくつくつ笑っている。
私とは違う、有り余っている余裕が悔しい。
「だって、何か……そんなん、カッコ悪いやん」
「アホやなぁ。カッコつけんのは、男の仕事やろ？ 女の子は素直でおったらええねん」
そのさり気ない台詞に、胸の奥が小さな音を立てた。右側を見上げて見えた彼の表情を、不覚にもかっこいい思ってしまった。
「楽しいことにはいっぱい笑たらええし、苦しい時はそのまんま苦しい顔して泣いたらええ。我慢して変にカッコつけようとせんでええねん」
忍足君が歩みを止めるから、私も立ち止まった。
彼はゆっくり私の方に向き直ると、片手を私の頭にぽんっと置いた。
目が合う。忍足君の瞳の中で小さな光が揺れている気がした。
「せやから、宍戸と関わって辛い時、思い詰めてどうしようも無くなった時、もう無理して笑わんでええで、Aちゃん」
「急に、なにを……」
「吐き出したもんが、どんだけ人に言われへん気持ちでも全部俺が聞いたる。な？」
優しい言葉が私の心の琴線をなぞった。
忍足君の輪郭が滲んでゆく。ゆらゆら揺れて、そして、一粒の温かい水滴が頬を滑り落ちた。
ああ、こんな所で泣く予定なんて無かったのに。忍足君は 優しい意地悪をする人だ。
一滴こぼれてしまったら、止まらなくなる。ゆらゆらと滑り落ちる、心の雫。泣けなかった数々の瞬間、不格好な作り笑顔で押し込めた涙が、ずっと胸の奥で叫んでいたものが、今になって、体の外へと次々に溢れ出してくる。
「これ、被っとき」
ふわりと頭に降ってきたのは、スポーツタオルだった。耳にさわさわと繊維の触れる感触。顔の横に垂れ下がった布が、まるで幕のようになって私の涙を器用に隠してくれる。
続く (更新停止中)
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます！感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (
レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます！とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます！(*＾▽＾*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2021年10月1日 17時
