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こんな時、もしも可愛い女の子だったら、「ありがとう」と素直な笑顔で言えるのだろう。きっと鳴島さんなら、そうする。裏も計算もなく、ただ純粋に。そうして、その後には愛らしくはにかむのだろう。
でも私には、うつむいて歩道のレンガを見つめながら歩くことしか出来ない。たった一言すら、唇の内側で震えて出てこない。忍足君の長い脚が真横で規則的に歩幅を刻んでいる。
おもはゆい沈黙が熱となって流れゆくなか、手櫛で後ろ髪を直すふりをする。そっと忍足君を盗み見ると、何故か少し幸せそうに微笑む横顔があった。
すぐに目を逸らし、やっぱり歩道のレンガばかりを見送る。私の胸の中で、きゅっきゅっと小さな音が鳴っていた。
「何観たい？」
映画館のロビーで忍足君が聞いた。
いくつかあるデジタルサイネージに、上映中の作品達の宣伝画像が映っている。その内の一つに目が止まった。『思い出の暦』というタイトルが標された邦画である。
「あ！ これ、この前石井君が、良かったって言うてたやつや。私、まだ観てへんねんなぁ」
「確かに最近、ようテレビで宣伝してんな」
「忍足君は観たん？」
「いや、まだやな」
ならこれを観よう、と提案しようとしたが、忍足君の声が先立った。
「なぁ、その石井君やけど、いつから仲ええん？」
急な問いかけだったから、返事が遅れた。
「いつからって……高二になってから」
「へぇ、今年から……」
「それがどうかしたん？」
真意を知りたくて、忍足君の顔を覗き込んでみたけれど、目は合わない。
「いや、なんもあらへんけど、えらい距離感近いなと思て」
「近い、かな？……ただ、石井君と居ると気が楽やねん。そのまんまの自分で居っても平気やし。自然に受け入れてくれる感じ。せやで、私にとっては大事な友達やねんなぁ」
「石井君も、そう思てんちゃう？」
「えー、それは石井君にしか分からへんわ」
そうは言ったものの、きっと石井君も同じように思ってくれていると自負する心も確かにある。
「ほんで、石井君がこの映画おすすめっちゅうとったんか」
「うん」
「ほな、こっち観よか」
「……こっち？」
忍足君が指差した先には、さっきの話の流れからまるでかけ離れた、宣伝映像があった。
『鏡像』という題名が禍々しいフォントで書かれ、鬼気迫る表情の主演俳優と錆びた鏡が載っている。
「嫌やった？」
「え！？ 嫌っちゃうけど……」
「Aちゃん、まさか怖いの苦手？」
図星だった。
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます！感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (
レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます！とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます！(*＾▽＾*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2021年10月1日 17時
