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私――AA――と忍足侑士の関係は、おおよそ彼のこんな一言で始まった。
「なあ、Aさんの好きな人って、宍戸やんな」
高校二年生の初夏、梅雨入り前のじめじめした暑さが滞留する教室で、前の席の忍足君は椅子に横向きで腰掛け、急に私へと顔を向けた。かと思うと、突如としてこの一言を放ったのだった。
ドクッと、はっきり聴こえる心音。心臓が耳や脳まで上がって来たようだった。胸の真ん中には、寒い風と砂嵐が拭き乱れる。冷静さが保てない。
「なんなん急に」
やっと紡いだ一言のはずなのに、棘が出た。後悔すると同時に、返ってきたのはおどけた返事であった。
「あ、怒った?」
その後、次の授業の担当教師が教室に入って来たため、この不穏な会話はこと切れた。
しかしその後、授業が終わって休み時間になっても、忍足君は私に話しかけることなく、彼らしいリズムで淡々と時間を過ごしていた。じっと彼を見続ける私の視線を、すり抜けるようにして。
そうして、気持ちは不愉快に揺れたまま、一日の授業過程がいつものように終わっていった。
これ以上、忍足という男を気にしても仕方がない。彼は周囲に噂を流すなどという愚行はしないと踏み、というより、自分だけ考え込んでいるのが馬鹿馬鹿しくなり、何も問いたださないと決め、帰り支度をして昇降口に出る。
自分の靴箱を開けながら、はぁ、と重いため息をつくと、足音もなく突如として後ろから現れた声に引き留められた。
「待って待って」
それは紛れもなく忍足君で、すっと視線を流せば、やはり彼が佇んでいた。気にしないと決めたはずなのに、動揺してしまう。
「何?」
「気にならんの?」
「別に。忍足君がそう考えるのは、忍足君の勝手やん」
煩わしさを振り切るが如く言えば、彼は普段のイメージとはかけ離れて、ポカンと口を半開きにした。
説明を求めるその瞳に、私はもう一度ため息をついてから答えた。
「自分以外の人ががどう思おうと、それは想像の範囲を出ぇへんやん。ほんまのことは本人にしか分からんし。せやから、他人の想像は私には関係あれへんってこと」
こんな時、さらりとした笑顔一つで去ることが出来ない私は、まだまだ大人には程遠く、だの意地っ張りな子供だ。”関係ない”という言葉とは裏腹にムキになった声色が、それをよく表している。
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます!感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます!とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます!(*^▽^*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2021年10月1日 17時