20 ページ20
デートというのはこんなにも体力や神経を費やすものだったのか。
結局、再開した服装選びも苦労を極め、その次に装飾品や鞄の中身等々と、結構くたびれてしまった。やっとの思いで仕上がった装いも、果たして正解かどうか分からない。
せめて待ち合わせには遅れないよう早めに家を出た。
九時丁度――待ち合わせの三十分前。指定の駅の東口に到着する。もちろんのこと、忍足君はまだ居なかった。
きっと私が待つ身になるからと、鞄に忍ばせてきた文庫本を広げた。
バサッバサバサ――文字を追う途中、突然何かが勢いよく落ちる音で、本から目を離す。見れば、大学生くらいの男性が、鞄の中身を盛大にばらまいていた。
「大丈夫ですか！？」
条件反射で駆け寄り、慌てて男性を手伝う。
「すみません」
「いえ、気にせんといて下さい」
男の人にしては持ち物多いんやなぁ、なんて思いつつ、縦横無尽に散らかっている小物を拾っていると、男性が「あの……」と遠慮がちに何かを差し出してきた。
「これ、落としましたよ」
その手には、さっきまで私が読んでいたはずの文庫本があった。どうやら、手助けしようと飛び出した勢いで放り投げてしまっていたらしい。
「あは、はは……すみません」
気恥ずかしくて、愛想笑いで取り繕う。
男性が、何故か私の顔をじっと見てくる。
「な、なんか付いてます？」
「いえ、何も。もしよかったら、なーー」
突然目の前に影が伸びる、と同時に、視界に映ったのは男性らしい胸板と水色のリネンシャツ。
「Aちゃん、待った？
紛うことなき忍足君だと一瞬で分かって見上げたが、逆光で彼の表情は分からなかった。
「助かりました。さようなら」
先程の男性が、忍足君の背中から姿を覗かせ、少し戸惑ったようにそう言った。
「あ、はい。気をつけて下さいね」
さっき男性が言いかけた続きが気になったが、私が返事をした時にはその後姿は遠ざかっていた。
「Aちゃん、行こか」
「うん」
忍足君の左手が背中に柔らかく触れる。
図らずも、私は肩をびくりと縮めてしまう。兄以外の異性に、ろくに触れられたことがないのだ。
彼の瞳が意地悪になった。
「えらい初心な反応やなぁ」
「な！ んなことないわ！」
必死な反抗と裏腹に、頬が火照る。
「今日のAちゃん、可愛いな」
その囁きに、もう何も言い返せなかった。不覚にも、とても嬉しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 22人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます！感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (
レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます！とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます！(*＾▽＾*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：megumi | 作成日時：2021年10月1日 17時
