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席に戻って座ると同時に、前の席の忍足君が振り向く。
そうして私と視線が繋がるまで待ってから一言、囁くように放った。
「アホやなあ、Aさん。恋愛の仕方、全然分かってへんやん」
きっとどこかで私と宍戸君の話を聞いていたに違いない。
小首をかしげた薄い微笑みが憎らしい。何もかもお見通し、と言わんばかりの双眸が悔しい。
思わず涙がこぼれそうになって、視線を逸らす。そして、次から次へと押し寄せるやるせなさを投げつけるように、私は言い捨てた。
「そんなに言うんやったら、忍足君が教えてよ」
完全なる八つ当たりだった。胸の中で叫び続ける独りよがりの恋心が反抗心となってせり上がり、やけくそで口走ったにすぎなかった。
それなのに、忍足君は急に真剣な声色になって、さらりとこう言ってのけた。
「教えたるわ」
予想外の答えに啞然とする。そっと目線を戻せば、忍足君は底の方まで透き通った瞳で、一直線に私を見ていた。時が止まる音がした。
どこか意識の遥か遠くで、授業開始のチャイムが響いていた。
そこから先の一日、授業など全く頭に入ってこなかった。宍戸君のことすら、これっぽっちも考えていなかった。
ずっと、忍足君との、あの一つのやり取りばかりが脳内に回っている。勢いで言ってしまった言葉はとんでもないことのような気がするし、それに対して返ってきた彼の言葉も、解釈のしようによっては大変な事態になる。
帰りのホームルームの最後の礼が終わった瞬間、私は思わず目の前の半袖シャツの背中をつまんだ。
「忍足君」
一拍置いてから、彼はあくまでなんてこと無い感じで振り返る。
「ん?」
「やっぱり、今日言うたことは」
無かったことにして、と続けようとしたのに、叶わなかった。
「自分で言うたことには責任持たなあかんで?」
こう言って忍足君に遮られたからだ。
そして私が何か言うより先に、彼は言葉を重ねた。
「話、しよか。今日は部活休みやねん」
クラスメイト全員が教室内から捌けるのを待ってから、忍足君は話し始める。
「ほな例の協力の話は交渉成立ってことで、俺ら、付き合おか。……せやけど、恋愛の仕方教えてっちゅう誘われ方には驚いたわ。自分、意外に大胆なんやなぁ」
そんな台詞を淡々と起伏なく喋るから、見落としそうだった。いかにも普通のことかのように話しているけれど、違う。
「え、ちょお待って!」
私は慌てて忍足君を止めた。
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます!感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます!とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます!(*^▽^*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2021年10月1日 17時