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普通、思いきり髪を切る行為というのは、失恋と紐付けられている。
今思えば、宍戸君の眼差しに映るための努力は、皮肉にもその時点で、恋の破綻を暗示していたのかもしれない。
妙にしんみりした気持ちで廊下を歩く。そして教室に入ろうとした瞬間、急に「A」と呼び止められた。
姿を見なくとも、私を呼ぶその一文字目で、宍戸君だと分かる。
今まで何度だって呼ばれてきたのに、未だにその呼び声にときめいてしまう自分に呆れる。
振り向けば、宍戸君は屈託のない笑顔で「よう」と片手を挙げた。
「ちょっと相談したいことがあんだよ。今、いいか?」
照れくさそうな彼の表情に、胸が痛む。この時期の相談事なら、何となく予想がつく。
「ええよ。鳴島さんの誕生日やろ?」
「はっ、Aには敵わねぇーな」
「去年もおんなじ相談受けたし」
「今年も頼む!」
相談相手に私を選ぶ時点で、宍戸君は今もなお私の想いに全く気付いていないということが分かる。
辛い気持ちと後ろめたさで、自ずと視線がうつむきかけるけれど、それを覆い隠して私はおどけてみせた。
「報酬は?」
ニッと口角を上げて視線を合わせる。
こうして小さな報酬を求める戯れは、私たちの間で互いに何度も繰り返されてきた。
「購買部の梅のど飴と、バナナミルク」
私の大好物をしっかり把握しているのが憎らしい。バナナミルクは中等部の頃から変わらない好物だが、梅のど飴にいたっては最近はまっている物なのに、いつ知ったのだろう。
「もう一声くれへんかなー?」
「じゃあバナナミルク三日分に増量でどうだ!」
「乗った」
「お前、ほんっとこういう交渉うまいのな」
「褒め言葉として受け取っとくわ。ほんで? 今年のプランは?」
「プレゼントは、百香が似合いそうなブレスレットを見つけたから、それにしようと思ってんだ」
「へぇー、ええやん。鳴島さん、金属アレルギーは?」
「アレルギー? いつもキラキラしたネックレスとか着けてっから、大丈夫だと思うけどなぁ」
「ちゃんと聞いといた方がええで。アレルギー対応の素材着けてんのかもしれへんし」
「そんな物もあんのか……分かった」
その表情を見ていれば、宍戸君が鳴島さんの姿を思い浮かべながら一生懸命にプレゼントを選んだのが分かる。
そしていつも彼が彼女のことを話す時は、話し方も眼差しも優しくなるから、ああ、やっぱり宍戸君は鳴島さんのことが大好きなんやなぁ、と実感させられる。
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます!感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます!とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます!(*^▽^*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2021年10月1日 17時