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気を取り直して、人通りが賑やかな場所まで足を進めると、公開中の恋愛映画のポスターが目に入る。
儚げな書体でタイトルが書かれ、今をときめく俳優と女優が向き合っている。確か、昨日のテレビで特集をやっていた気がする。
『時を巻き戻せるなら、何をやり直しますか?』
ポスター下部に書かれたその宣伝文句に、きゅうっと胸が痛んで喉がつかえた。
戻せるはずがない。時間は絶対的なものではないと証明されたが、逆行させるのは不可能だ。もし戻せたら――しかも、経験や記憶もそのままで――こんなこと、愚かな考えだと分かっている。
それでも、限りなくゼロに等しい確率に賭けたくなるのは、今も尚、彼を想っているからだろうか。
繋いでいた指先がほどけたあの日から、連絡を取る手段も失った今日まで、新しい恋人がいなかったかと言えば、そうではない。違う誰かに心を委ね、この人となら、と思ったこともある。
それでも、ただの一瞬すらあの過去の日々を超える時間は無かった。
私の心の中には、いつも彼が住み着いていて、他を入れようとしない。忘れたい、忘れようと思う程に、想いは輝く。
過去を思い返すなら今以下のことを――いつかどこかでそんな言葉を聞いたことがあるけれど、それはとても難しくて、結局、今以上のものを全身で映し出してしまう。
諦めを引きずりながら、慣れ切った満員電車の人混みの中で、見飽きた景色を横目で眺める。
途中の停車駅で乗り込んで来た、恋人同士の学生が偶然すぐ隣に立った。微笑ましい会話が鼓膜に流れ込む。それが今の私の心には、とても痛かった。
あの頃、私もこうして電車に乗っていた。端から見れば、確かに恋人同士だっただろう。あの頃の感情を言葉にするなら、"恋"という一文字だった。
「アホやなぁ、私」
吐息混じりの呟きは、誰にも聞こえない。
心が勝手に一人歩きする。どうにもならないと諦めた私を振り切って、あの十六歳の時の煌めきを求めて巻き戻ってゆく。
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます!感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます!とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます!(*^▽^*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2021年10月1日 17時