二十七通目 ページ27
先週、体育祭の個人種目で一位になってしまったばっかりに、Aはクラスで騒ぎになってしまった。いつも陰を選んで過ごしている彼女がいきなり輝く姿を見せたので、和菜以外のクラスメイトが驚きに包まれたのだ。
突然注目を浴びたAは慣れない感覚に震えたが、その隣に居た和菜は親友の雄姿が皆に知れたことで誇らしい顔をしていた。
加えて隣の席の健吾は百メートルで一位で、速さも抜きん出ていたためにクラスの陸上部の人から勧誘を受けていた。彼は運動神経が良いのに部には所属していないのだ。
この学校の体育祭は縦割りクラス制なのだが、少なからず二人の活躍も貢献して、Aの所属するクラスチームは優勝した。
週が明けた今日、Aは自分を囲む環境が変わったのを感じた。
今まで和菜以外とは何か用がない限り話さなかったのに、周囲が話しかけてくれるようになったのだ。朝の教室では挨拶をかけてくれる子が何人か居たし、休み時間に和菜と話しているとその会話に加わってくる子も居た。
この変化にAは振る舞い方が分からず終始戸惑っていたが、何だか決して嫌な感じではない、くすぐったい感覚を肌で感じた。
そして放課後、そんな彼女が足を運ぶのは勿論あの図書館だ。ペンギンとの文通は途切れることなく続いている。
そろりと引き戸を開けて中を伺い、誰も居ない室内に安心する。例の一年生に会った出来事は未だにちょっとしたトラウマとして心にくすぶっていた。
でもそんなモヤッとする気持ちも、秘密の郵便受けを開けて水色の便箋を見れば穏やかに消される。封を切る。
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拝啓、Aさん
体育祭、お疲れ。それと、一位おめでとう。
足速いね。運動が得意じゃなきゃあんな風に走れないよ。君の走ってる姿、僕はいいなって思った。
でも少し哀しそうだった。無理しないで。それと、君には君にしかない魅力が沢山あるから、あまり自己否定しないで。
敬具
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どうして彼の文字はこんなに温かく、そして救ってくれるのか。Aの目頭に涙が込み上げる。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます!幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2020年2月1日 23時