二十六通目 ページ26
隣に立つ総士を一瞥する。
一度会って声も交わし、更には三年も想われているのに存在すら気付かずに居たこの友人。今まで好きな人なんて出来たことなかったくせに、いきなり新入生に気になる子が居ると言い一直線に進むこの友人。
それなのにどうして今になってAを認識したのか。興味を示すのか。健吾は未だかつて憎んだことのない友人を憎らしく思い、目を細めた。
だが士は何も知らないだけで悪くない。そして彼がどれ程良い奴かを、健吾は誰より分かっている。
皮肉にも自分がAに手紙を出したのも彼の言葉に鼓舞されたからだ。
それは総士が後輩について打ち明けてきた時だ。
「気になる子って好きってこと？」
「そんなんじゃねぇって」
「どういうこと？」
「何も知んないのに、好きとか分かんねぇよ。まずは知り合って話して、そっからだろ？」
「気になったのは何で？」
「理由なんてねぇよ。ただ、知りたいって思ったんだ」
真っ直ぐで素直な友人に憧れた。自分に同じことはできないけれど、好きだから知りたい、知るから好きになる、そんな気持ちを行動に移したいと健吾は思って手紙をしたためたのだった。
ところで次の種目は百メートル走だ。出場する健吾は友人を残して入場の列に向かった。
スタートラインで構える時が来た。いつもはこんなことで緊張しないのに、今はやけにソワソワする。彼女は探しているだろうか、と期待するからだ。
ピストルの音と共に駆け抜ける。ほんの十数秒の間に二度、彼の目はAを捉えていた。
一度目は序盤だ。姿を見つけた時彼女の目はどこか一方向を指していて、その行き着く先は総士であるとすぐに分かった。
どうして彼ばかり見つめるのかと心が叫んでいた。その眼差しで自分を射貫いてはくれないだろうかと、声にならない望みを投げた。
二度目は後半であった。寂しそうな彼女の目を見た。軽く伏せられていたその目が上げられた時、走る自分の目と一直線に繋がった気がして、健吾はスピードを一気に上げた。
ゴールした彼は肩で息をする。久しぶりにこんな全速力で走ったように思う。結果は一位であった。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます！幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (
レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2020年2月1日 23時
