二十一通目 ページ21
週が明けると、その日はペンギンからの手紙が届くはずの日である。
Aは放課後までの時間をいつも以上に持て余した。それはきっと名も知らない送り主の文字に癒されることを期待していたのかもしれない。
第一図書館は本当に人が居ない。やっと来た夕方にそろりと引き戸を開けてみると、がらんとして誰も居ないことがその空気から伝わってくる。
前回手紙を置きに来た時も、こんな風に誰も居なかった。そのはずなのに、あの時はあの人とどういう訳か会ってしまった。思い出して苦しくなる。そんな詰まる気持ちを振り払うように頭を軽く左右に振った。
Aは些かすっきりしない面持ちを携えつつ文通の箱まで足を進める。でもその秘密の箱に指をかけて開け、水色の封筒が見えた時に表情は柔らかいものに変わった。
恋の傷も想いもまだ全然薄くならない。けれど関わって少ししか経っておらず、ましてや文字でしか存在を知らない手紙の彼に、少女の固い心は着実に開いていっているのであった。
――――――――――――――――――――
拝啓、A様
お手紙ありがとう。
体育祭の時、走るAさんを応援するよ。
僕が誰なのか今知られるのはちょっと困るけど、君が探してくれるならそれもいいかもしれないね。君に僕の姿が届くように全力を尽くすよ。
Aさんがロックを聴くのは意外だったな。実は僕も好きなんだ。おすすめのバンド、教えて欲しいな。あと僕は普段クラシックをよく聴くよ。
食べ物、ねばねばが嫌いなのは一緒だね。でも僕は辛い物が好きだから、そこは反対だ。嫌いなものは、ねばねば以外ならマンゴーかな。
敬具
――――――――――――――――――――
今日はその場で手紙を開いた。何となく、早く彼の文字に触れたかったのだ。
「クラシックか……」
Aは便箋を丁寧に畳んで呟いた。
彼女の外向けの顔からすればクラシック音楽に興味を持っていそうなのだが、本当の彼女は全く興味がなかった。けれど、手紙の彼が良いと言うものに触れたくなった。
家に帰ってから早速動画サイトでクラシック音楽を検索し、再生ボタンを押した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 29人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます！幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (
レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：megumi | 作成日時：2020年2月1日 23時
