二十通目 ページ20
止まれと思う程にAの目の端からは、心に閉じ込めきれない感情が溢れてくる。そんな涙を無意味なものとして片付けようと、適当に自虐的な言葉を並べた。
「届くはずないのに、泣くなんて、私変だよね。私なんて総士くんの視界にすら入ってないのに、辛いなんて、おかしい」
こうして自身を過小評価するのは彼女の癖でもあり、それは無意識のうちに身に着けた護身術のようなものだった。誰かに胸の内で貶される前に自分で自分を一番貶してしまえば、周囲の蔑みや嘲笑の視線を和らげられるし、それらを推し量り想像してしまう恐怖も小さくできるからだ。
「私なんか――」
「そんな悲しいこと、言わないで。自信もって欲しい」
流れるテープのように途切れることなく続くAの声だったが、和菜の真剣な瞳に遮られた。友人の目は力強く訴えかけるものであるが、その話す声は羽のように柔らかく涙に凍える心を包んでくれる。昔から、この癖が出てしまう時はいつもこうして和菜に救われてきた。
しゃくり上げながら紡いだ「ありがとう」はたった五文字なのに、とても時間がかかった。Aのこの言葉は今のことだけでなく、いつも隣に居てくれることへの感謝も含んでいた。
ふと、背中に温もりを感じた。それが信頼を置く友人の温かさだと間違いなく分かる。Aは心地良さに身を委ねた。
彼女が安らぎの微笑みを浮かべたそんな頃、和菜の珍しく静かな話し方が耳に流れ込んだ。
「Aを想ってる人が居るんだよ。気付いてないだけで」
あの手紙が届く前なら、いくら和菜の言葉でもこればかりは信じられなかっただろう。けれど、名も知らぬ彼――自分を想う存在を知ってしまった今は、安易に否定できなかった。ペンギンという存在は架空の人物で手紙はただの悪戯かもしれない、という疑惑を拭いきれていないが、その疑惑が本当であるという確証もない。
今だからこそ、Aは和菜の何か知っているような話しぶりが引っかかった。だから、「あり得ないよ」ではなく「その人って誰?」という返し方をした。
和菜は意表を突かれたのか一瞬固まった後、「誰かは知ってるけど、ごめん、その人との約束で、どうしても言えない」と気まずそうに手を合わせた。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます!幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2020年2月1日 23時