十九通目 ページ19
「A？ 大丈夫？」
「え？ あ、うん。ごめん、ぼうっとしてた」
和菜の心配そうな声が、Aの意識を過去から現在の自室まで戻した。
そこで改めて実感する。変わったことがついこの前まさに起こったことを。ずっと想いを大切に温めてきた彼には、好き合っている人がいたのだと。
Aの意識はまた自分の心に沈んでゆき、合わせるように俯く。
そんな姿を見つめる友人は、申し訳なさそうに、そして寂しそうに目を狭くた。
「何か、無理強いしちゃってごめんね」
下に向いていたAの視界の中に和菜の顔が入り、それによりもう一度我に返る。
「どうして謝るの？」
謝られる自覚が無くてそう聞いた。
すると友人は自責を含むようなため息を一つ吐いて答えた。今度は和菜が俯いてしまった。
「聞いてあげようかって無理に言ったから」
「ううん、そんなこと何も気にしてないよ。だから、謝らないで？」
謝らせてしまったことに罪悪感を感じて、友人の背中に触れながらAがそう諭すと、和菜は「でも、ごめん」とけじめを付けるように勢いよく手を合わせた。その友人の動作は元の彼女らしさが戻ったことを示すようだった。
Aは和菜のその力強さに少し笑ってから、ぽつりぽつりと呟き始めた。
「ぼうっとしたのは、和菜せいとは違うの」
話の内容が苦しいため詰まり気味なAを、和菜は急かすことなく丁寧に言葉を拾い集めて聞いてくれる。これは立場が逆の時も同じで、二人は互いに信頼し思いやりを持ち合っているのだ。
「私、総士くんを好きなだけで幸せなのは本当なのに、やっぱり苦しくて」
自分の恋は見ているだけ好き出るだけでいいと最初から割り切っていた、あの失恋と意味付けた光景を見てからも何度もそう言い聞かせたはずなのに、どうしても心は完全に晴れない。
同時に始まった突然の文通に救われている部分もある。初めて自分を好きと言う人が居た。誰か分からないけど、優しく想いを寄せてくれた。でも、やはり大事にしてきた恋心を早々と断ち切ることは出来ない。
流しきったと思っていた涙はまだ零れるようだ。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます！幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (
レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2020年2月1日 23時
