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十六通目 ページ16

Aが初めて総士と関わりを持ったのは三年半ほど前、中学一年生の冬休みだった。


 *


 その年の冬休みも、例年通りAは早々と宿題を終わらせた。面倒なことはさっさと片付けておきたい性格だからだ。そしてこの休みの間に読むための本を探しに図書館に行った。勿論、先述の通り宿題の読書感想文は終わらせていたので、趣味としての本である。

 開館後直ぐの人少ない時間に行くのが習慣の為、空気の温まりきらない午前の寒空の下、自転車で街中へ向かう。標高の高い自宅からすぐの急な坂道を滑り下りると、風が頬を厳しく刺した。


 目的地に着いたAが館内に入ると、まだ開館して間もないのに自習用のスペースには学生らしき人々が既に机が半分埋まる程居た。大方受験生だろう、と思いながらそのスペースを横目で眺めながら通り過ぎ、文庫本コーナーへと足を進めた。

 最近は日本文学ばかり嗜んでいたので久しぶりに海外文学を読もうか、と思い立って書架の間をすり抜けながら探す。

「どれにしよう」

 立ち止まったAは膨大な数の背表紙に視線を彷徨わせて、吐息に近い本当に小さな呟きを漏らした。

 彼女の本の選出方法は、好きな作家の執筆物か直感によるものかの二つである。今回は後者の方法で見つけようと決めた。

 じっと題名たちと睨めっこする。左から右へと目線を指のようにしてなぞってゆく。こうして集中している時間、Aは周囲の気配を全くと言っていいほど感じなくなる。インスピレーションを研ぎ澄ませているのだ。

 そしてある本まで来たとき瞳の動きがピタリと止まった。
 そっと手を伸ばして指を掛けようとする。その刹那、右側から伸びて来た見知らぬ指と触れ合った。驚いて勢いよく手を引く。ほんの数秒間の出来事だった。

「あ、ごめ――」

「すみません!」

 隣の少年が謝るのを遮って、我先にとAは謝罪を急ぎ頭を下げる。

 そして一拍おいて「俺こそ、ごめんなさい」という少々圧倒されたような少年の声が聞こえた時、彼女は顔を上げた。

 Aより少し背の高いその彼は、目を丸くした顔から爽やかな笑みへと表情を変化させた。眩しくてキラキラした少年の笑顔が少女の網膜に色濃く投影された。



 

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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます!幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:megumi | 作成日時:2020年2月1日 23時

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