二通目 ページ2
それはこの年頃には良くあることだと言われるかもしれない。でも、その瞬間を生きているAには一大事だった。
別に実りを期待していた訳ではない。始めから諦めていた想い。けれど、砕ける時はやはり苦しい。
早く目を離したいはずなのに、歩き続ける皮肉なほど眩しい人影を何故か視線はじっと追いかけていた。体はぴくりとも動かず、自身の窓際の席に立ち尽くしている。
帰るために荷物を詰めたばかりの机の上に置かれた鞄の紐を、Aはぎゅうっと気持ちを落ち着かせるように握りしめる。
結局視界から切ない景色が消えるまで、その人物から目を逸らせなかった。過ぎ去った後も、普通に戻った映像をただ茫然と焦点の合わぬまま見つめていた。
「おーい。早く帰れよー」
それから数分して下校時刻の鐘が鳴ると、校舎内の見回りに来た男性教師が、窓の外にいつまでも顔を向けて立ってるAを急かした。
「おい、聞こえてないのか? 教室閉めるから、急げ」
比較的若い気さくなその教師が、返事も反応もしないAを不思議に思い近付いた。
近くで聞こえた覇気のある声が耳に入り驚きで両肩をすくめたて、Aはやっと我に返った。
「す、すみません……失礼します」
こんな風に教師から注意されることは珍しかったので、嫌な音で心臓が鳴った。その感じはさっき窓の外に釘付けになった時と少し似ていたけれど、やはり別物だった。
「気を付けて帰れよー」
教室を鍵を閉めながら笑顔でそう言った教師に、ぎこちなく一礼してAはその場から歩みを速めて立ち去り階段を駆け下りた。
昇降口に着くと、その外では急ぎ足の生徒達が少し前の彼女と同じように教師に急かされていた。
Aが焦りのせいで少々乱暴に下駄箱の蓋を開けて靴を引っ掴むと、はらりと一通の封筒がそこから足元に舞い降りた。
「へ?」
予想外の出来事に思考が追い付かず、一瞬動きが止まる。違う下駄箱を開けてしまったのか、と手に持つ靴と開けた下駄箱を交互に確認したが、紛れもなくそれはAのものだった。
どうすればいいのか狼狽えていると、僅かに怒気を帯びた教師の声が外から響いてきたため、取り敢えず封筒を鞄に詰め込み、校門を飛び出した。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます!幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2020年2月1日 23時