大切な日 ページ35
いつだったか、彼に聞いたことがある。他愛もない会話が流れてゆく中で、ふと思い付いたことだった。
「朝倉さんの誕生日っていつですか？」
この単純な質問に、彼は瞳に影を引いて伏せた。
誕生日に何か良くない思い出でもあるのだろうか。だけど彼の表情はそれとはまた別のようだった。何となく、これ以上その領域には入ってくるなと言われているようだった。
「そんなことは、どうでもいいよ。」
いくらか間合いが空いた後で落とされた言葉。初めて聞く、私を跳ね退けるような言い方に、一抹の不安を覚えた。
どう返事をして良いか分からず、気の抜けた相槌を打つ。
「僕の誕生日なんて重要なことじゃないよ。Aの誕生日は大切だけど。」
そう言った彼の瞳にはもう陰りはなく、いつもの柔らかい笑顔を浮かべていた。
こんな些細なことですら、「なぜ？」と聞けないのがこの関係を表しているようだった。
思えば、私は朝倉さんの家庭のことだけに留まらず、彼のことを何も知らない。いつも遠慮して、彼に嫌われないように、物分かりの良い女で居た。喧嘩だって一度もしたことがない。
結局、二人は黙り合って、ひと時の夢で傷を舐め合う、それだけの関係だ。本当のことは互いに言えないのだ。そのくせ、実は、もしかしたら、なんて期待していた自分が滑稽で笑える。
彼の誕生日は朝倉夫婦の結婚記念日だった。彼にとってそれは、私に日付のみならず季節すら教えられない程大事なものだった。
私に祝われるものではない、ということだ。
その日は夫婦で特別な時間を過ごしているのだろう。私に知られてしまっては、その日だけでなく二人の思い出も邪魔される可能性があるわけだ。
やはり彼の一番は奥さんなのである。本人にその自覚があるかどうかは分からないが。少なくとも奥さんはその愛情を感じ取れてはいない。
私はこんなことを言う立場ではないが、この夫婦はすれ違っているだけで、根底ではしっかりとした愛情の絆がある。
きっと他人からも本人達からも素敵に思える夫婦になれるだろう。いや、実際にもうそうなのだ。
だから早くここから身を引かなくてはならない。
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megumi(プロフ) - いなすらさん» ありがとうございます！ご期待に沿えるよう、頑張って執筆します(^^) (2019年5月22日 18時) (
レス) id: 04e98a2c19 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - めぐみさん» 誤字でしたか(笑)大丈夫ですよ！続き楽しみにしております((｡´･ω･)｡´_ _))ﾍﾟｺﾘﾝ (2019年5月22日 17時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
めぐみ(プロフ) - いなすらさん» いなすらさん、ご指摘ありがとうございます！誤字です、申し訳ありません。すぐに訂正いたしますm(__)m (2019年5月22日 17時) (レス) id: a2b7118433 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - 作品名、幸せだからいになっていますが、誤字でしょうか？意図的なものではないと思いますが、そうだったらすみませんm(*_ _)m (2019年5月22日 15時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2019年5月21日 5時
