苛立ち ページ32
-Aside-
「俺は、だから、過ちを……。」
何を言えばいいか分からない。
奥さんの存在も想いも、朝倉さんの過去の片鱗も、隆の罪も、全てを一度に目の前に並べられて思考が追い付かない。
「何で奥さんは隆のこと知ってたの?」
出てきたのは、少なくとも今は重要性を持たない質問だった。こんなことを聞いたのは、沈黙を作りたくないと無意識に思った結果だったのかもしれない。
「え……ああ、広樹さんのスマホを見たらしい。」
俺の家の場所は広樹さんが近くだって口に出してたみたい、と隆は、何故そんなこと聞くんだとでも言いたげな表情で答えた。
ということは、それで私の連絡先も知ったのか。ならば、今まで彼と私が交わした文章も見ているということになる。色めいた言葉がいくつかあるので、私が不倫相手だということは一目瞭然だっただろう。
ではなぜ自由恋愛を許可しているのに私に電話をかけてきたのだろうか。奥さんの言葉を聞かない限り分かりそうにもない。
「なぁ、お前さ、広樹さんと不倫してんじゃ……」
隆の発現に肩が跳ねる。何でそうなるの、と冷たく返すけれど、彼には動揺が伝わっているような気がしてならない。
「いや……お前が広樹さんと会った時期も、今までの流れも、ぴったり合うし、それに……」
俺と同じ目をしてる、と真剣な表情で話す彼に私は苛立ちを覚えた。
「自分の目なんて自分で分からないでしょ。いちいち鏡でも見たの?」
「そんなんじゃねぇ。」
「じゃあ何?」
この苛立ちは何か。どんどん語気が強まる。隆に知られるかもという焦りか、奥さんの電話に対する戸惑いか、はたまた罪悪感からくる自己嫌悪か。
どれも違う気がする。この感情の先には朝倉さんと私を嘲笑う私が居る。
「お前、電話が恵美さんからだって分かったとき、罪悪感みたいな、そんな顔してた。」
「そう……。もし隆が言う通りだとしても関係ないし、その夫婦も許容してるのに、何でそんな必死に聞いてくるの?」
何か言おうとする彼を無視し、私の口は止まらない。
「本当は奥さんが好きで、私への気持ちはその想いを誤魔化すためなんじゃないの?」
「違――」
「ねぇ、隆、」
「私に対する目だって、愛情じゃなかったよ。」
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megumi(プロフ) - いなすらさん» ありがとうございます!ご期待に沿えるよう、頑張って執筆します(^^) (2019年5月22日 18時) (レス) id: 04e98a2c19 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - めぐみさん» 誤字でしたか(笑)大丈夫ですよ!続き楽しみにしております((。´・ω・)。´_ _))ペコリン (2019年5月22日 17時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
めぐみ(プロフ) - いなすらさん» いなすらさん、ご指摘ありがとうございます!誤字です、申し訳ありません。すぐに訂正いたしますm(__)m (2019年5月22日 17時) (レス) id: a2b7118433 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - 作品名、幸せだからいになっていますが、誤字でしょうか?意図的なものではないと思いますが、そうだったらすみませんm(*_ _)m (2019年5月22日 15時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年5月21日 5時