求めるもの ページ28
「でも、ただ隣に居て聞いてくれるだけで安心を得られることってあるじゃないですか。」
このまま言い負かされたくないというプライドの片鱗が顔を出した。
奥さんは初めて押し黙った。それにより、俺は陳腐な優越感を得たが、彼女の表情は悔しさよりも切なさが滲んでいた。
「それは、心から信頼している人や愛している人に愛情を求める時ですね。」
さっきまでの奥さんの強さが嘘のように、女の弱さに変わってゆき、目には哀しみを溜めている。それでも無理に優しく笑うので、より痛々しく思える。
この人は広樹さんからは愛情が得られないということだろうか。だがそれと同時に、俺のことは何とも思っていないといのだろう。
考えてみれば、ほぼ初対面の相手に信頼や好意を抱くことはほとんどあり得ないのだが、奥さんの言葉に確かに胸の奥が痛んだ。そのためか、愚かなことを口にしてしまった。
「あの、じゃあ、俺からは……同情だけでいいんですか?」
「愛情は要りません。それは、あの人から受け取りたいものですから……。」
返された言葉にこの人の哀しさの全てが詰まっていた。
だがそれは二人の距離を一気に遠くし、俺に切なさだけを与えた。
俺は何を期待してるんだ、と思わず眉を寄せる。それを見て、何か勘違いしたのか、彼女は謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい、自分勝手な言い分を押し付けてしまって。不愉快な思いをさせてしまいましたね。つい感情が抑えきれなくなって。やっぱりもう、忘れてください。自分の意見を吐き出せただけで、すっきりしましたから。」
確かに彼女の意見には多少苛立ったし、愛情は要らないと言われたことで突き放されたように思えた。義務的に同情を与える約束をすることが不愉快に感じた。
だけど、この人を放っておくことが出来なかった。その人の瞳が濡れていたから。もう強さはどこにも残っておらず、ただ愛情に飢えている弱さとしての存在になっていたから。その寂しさを抱えたまま去ろうとする彼女がどうしても見過ごせなかった。
湧き上がるものは愛情か、同情か。
「お話、聞かせてください。約束、守りますから。」
この返事が正しかったのかは分からない。
ただ、例え正しかったとしても、その後に間違えた道へと迷い込んでしまった。
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megumi(プロフ) - いなすらさん» ありがとうございます!ご期待に沿えるよう、頑張って執筆します(^^) (2019年5月22日 18時) (レス) id: 04e98a2c19 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - めぐみさん» 誤字でしたか(笑)大丈夫ですよ!続き楽しみにしております((。´・ω・)。´_ _))ペコリン (2019年5月22日 17時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
めぐみ(プロフ) - いなすらさん» いなすらさん、ご指摘ありがとうございます!誤字です、申し訳ありません。すぐに訂正いたしますm(__)m (2019年5月22日 17時) (レス) id: a2b7118433 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - 作品名、幸せだからいになっていますが、誤字でしょうか?意図的なものではないと思いますが、そうだったらすみませんm(*_ _)m (2019年5月22日 15時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年5月21日 5時