暗斬剣 ページ39
今の流れ星…俺には分かる。一瞬見えた横顔。綺麗にたなびく橙に近い茶髪。ふわりとした匂いは、とても優しくて落ち着く。今すぐこの陣を出て加勢したい。共に戦い、語り合い、抱きしめ合いたい。俺の目の前に来た瞬間だけ、にこりと笑ったあの顔が瞼に焼きつく。こう思ってるのは俺だけじゃ無い…そうだよな……
「アスナ……。」
愛する人の名前をこぼすの同時、目頭が熱を帯び始める。胸が苦しい。この世界での痛みは現実になる。いくらアスナでも耐えきれるものではない。しかし、アスナはそれを承知で一人で戦うことを決意した。
「アリス、絶対辿り着こう。ワールドエンドオールターに！」
「なんですか、キリト。勿論です！」
剣士の数も相当減らした。二人にしてはかなり上出来といえる。しかし、エルドリエの天命は残り四割を切っている。疲労や外傷によるもので、ゆっくり癒せば八割程度には回復するだろう。それでも問題はまだ敵が残っていることだ。私の天命ですらもう六割を切っている。体の節々が悲鳴を上げていることも痛いほど––––実際に痛いのだが––––分かる。これ以上剣を振り続けることは不可能だろう。ならばもうこの手しかない。暗い湖の底。光の当たらぬ影の中。その記憶を今…解放する。
すぅぅう…
ゆっくりと息を吸い、疲れて重くなっていた眼をもう一度大きく開き叫ぶ！暗斬剣、応えて！！
「リリースリコレクションッ！！！！！！！」
イーディスが式句を言い終わる直前。暗斬剣は、主が何を言うか既に悟っていたかのように昏く瞬く。イーディスは剣を振り上げ構える。
「喰らえ…！」
その言葉と同時に、イーディスは剣を思い切り振り下ろした。その剣は空振りした。だが、正面にいる数千の剣士…いや、様々VRゲームのトッププレイヤーは直感した。この攻撃は防げない。そして、自分達は目の前の空振りに殺される。
スパァン！！！！
突如、剣士達は地面から湧いた鋭利な闇に貫かれた。腹の真ん中を真っ黒なものが埋め尽くしている。痛覚に苛まれる身体を酷使し、どうにかその闇に触れようとした剣士がいた。しかしその手は何も掴めない。橙の粒子が闇を覆い、剣士達は一人残らず姿を消した。私と暗斬剣の記憶解放術。一度しか打てないが、威力は強力だ。地下水を地表に集め、それらを全て闇の力に変えて敵を突き刺す。技の名を
「闇々斬刹…。」
闇すら刹那に変える。斬り刻む剣戟からは何人たりとも逃れられない。
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作成日時：2019年11月23日 12時
