先輩の威光 ページ21
もう、何時間闘っているのだろう。額にはうっすらと汗が浮かび上がり、二の腕のあたりからは若干の痛みが感じられる。剣の振りすぎで筋肉が悲鳴を上げているのだろう。
「まだ…まだです！」
アリスは二刀の金木犀を振り、意味不明な奇声を発しながら迫り来る剣士を捌く。しかし、一向に減らない。先程、何時間と言ったが、本当は何時間も経っていないのかもしれない。数が減らなさすぎて気が滅入っているだけかもしれない。そんな後ろ向きな考えは、徐々にアリスの動きを鈍らせていった。勿論、キリトも同様である。ましてや夜空の剣一本でいこうというのだ。私の疲労と比べ、尋常じゃないはず。それでもキリトは立って、闘っているのだ。なら私も、せめてキリトが倒れてしまうまでは倒れるわけにはいかない。
《アインクラッド流 片手剣ソードスキル ヴォーパルストライク》
夜空の剣には血色の閃光が纏わりつき、剣士の胸めがけ一直線に駆け抜けていった。血色の閃光でなのか、本当の血でなのか分からない程に赤黒く染め上げられた夜空の剣の刀身は、キリトの疲労困憊を見事に映し出していた。それではまるで––––
「キリト、その動き。それではまるで初等錬士のようだな。」
茶色の一つに束ねた長く美しい髪をふわりとなびかせる女性が後ろの方に立っていた。白金樫で出来ていると思われる剣を右手に携え、着ている服は紫を基調としている。一言で表すとするならば、美しいに尽きる。
「リーナ先輩…！？」
キリトの知り合いのようで、リーナ先輩と呼ぶその人に向けて目を丸くしている。
「なんだその目は。キリト、代われ。今のお前では本当の実力を出すことは出来ない。そちらは整合騎士の方ですね？あなたもお下がり下さい。」
「できません。あなた一人では無茶です。」
「一人ではありません。さあ、早く下がってください。」
「リーナ先輩は強いけどそんな…っ！あの人達って…！」
キリトが見た先にいたのは、二人の男剣士だった。金のぴっちりとした短髪で、白を基調とした服を着た剣士。そして、茶の少しふわりとした短髪で、緑を基調とした服を着た剣士。
「お言葉ですが、整合騎士殿！私達は、ノーランガルス修剣学院を第一席、第二席、第三席で卒業しております。時間稼ぎ程度なら可能です！」
「…分かりました。キリト、下がりましょう！あの三人、信用に足るのですね？」
「あぁ。勿論。リーナ先輩は俺なんかよりもっと強いよ。」
キリトよりも…！
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作成日時：2019年11月23日 12時
