灯る蝋燭の火 ページ17
開戦二日目。ベルクーリの抜けた代わりに、隊長はファナティオが務めた。目立った損害もなく、淡々と戦は続いた。中央前方部隊の交戦はとても激しかったが、引き分けとなったらしい。ダークテリトリーに向かったベルクーリは、今日のうちに人界に帰っては来なかった。
「我々人界軍の勝利に向かい順調に進み続けている。この調子で明日も頑張ろう。解散！」
二日目夜。軍議が終わった。軍議はテントの中で行なっており、複数の蝋燭に灯る火がテントの中を明るく満たしている。ファナティオは、ベルクーリが抜けた事による士気の低下を防ぐために前向きな言葉を放ち続けた。それは、己の心を塞ぎ込むためでもある。本心を言えば、今すぐにでもベルクーリを追いかけたい。その考えに浸るだけで、騎士としての私では無く、一人の女性としての私が目覚めていくような感覚に陥っていった。
「ファナティオ様。」
私の思考を破ったのは、アリスだった。
「どうかしたの？」
自分の胸に秘めたものを無理矢理に蓋で押し込めて言葉を発し、アリスに微笑みかけた。
「どうかされてしまっているのは、ファナティオ様の方ではないのですか？」
「わ、私…？」
「はい。先ほどの軍議ですが、ファナティオ様の心は、ここではない何処かあるように感じました。それは、デュソルバート様も…エルドリエも言っていました。」
「そう…かしら…。」
「ファナティオ様は、小父様がダークテリトリーに行かれて心配なのですよね？」
「……。」
ファナティオは唇を噛み、言葉を何も発することが出来ない。そして、少しの間。静寂が、ファナティオとアリスの二人きりのテントを包み込んだ。
「小父様は…必ず帰って来ます。絶対に帰って来ます。ベルクーリ・シンセシス・ワンは、誇りある我ら整合騎士団の団長ですから。」
「そうよね…こうやって騎士長を心配することで、いい方向に転じることなんてない。ありがとね、アリス。お陰で元気が出た。」
私は、心から本当に思ったことを今日ようやく口に出す事が出来た。胸がじわりと暖かくなり、脳裏にはうっすらと影が浮かび上がる。
大丈夫よね。きっと、あなたなら。
ファナティオは、天穿剣を鞘から抜き手入れを始める。テントを満たす蝋燭の火は、より一層強くなり、天穿剣の美しい刀身には蝋燭の火が写り込んだ。
ファナティオ…俺の代わりに皆を引っ張っていってくれ。頼んだぞ。
「ふふ。分かったわよ。」
私は、ベルクーリに微笑み返した。
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作成日時：2019年11月23日 12時
